GO TOP

Information

Information

雄の脳は雌にプレゼントをあげるようにプログラムされている ‐ショウジョウバエでの研究成果‐

雄の脳は雌にプレゼントをあげるようにプログラムされている ‐ショウジョウバエでの研究成果‐

2017.11.07 09:19

概要 

 動物界では、雄が雌に求愛する際に、自分の食べたものを口移しで雌に与える婚姻贈呈*1が知られています。しかし、この行動を生み出す仕組みはこれまで不明でした。
 
 このたび東北大学大学院生命科学研究科の田中良弥(博士後期課程学生・日本学術振興会特別研究員)、山元大輔教授のグループは、ショウジョウバエのうち婚姻贈呈を行う一種を用い、光を当てると脳細胞が興奮する*2ようゲノム編集*3を行いました。その雄を用いて光によって婚姻贈呈を誘発することに成功し、この謎めいた行動を生み出す脳の回路の解明に先鞭をつけました。
 
 遺伝研究に古くから使われてきたキイロショウジョウバエでは、フルートレス (fruitless: fru)という遺伝子*4が、性行動を生み出す神経回路の大枠を決定しています。この種は婚姻贈呈を示しませんが、同属のD. subobscura(和名なし)では雄による雌への婚姻贈呈が交尾成功に必須です。そこで、D. subobscuraに対してゲノム編集を行い、光を浴びた時に細胞に興奮を引き起こすタンパク質の遺伝子をfru遺伝子の内部に組み込みました。さらに、蛍光タンパク質も同時に持たせて、興奮を起こした細胞を目で見えるように工夫しました。こうして、fru遺伝子の指令によりD. subobscuraの脳内に形作られる神経回路を、光をあてて興奮させたところ、D. subobscuraに固有の婚姻贈呈行動の一部が、見事、惹き起こされたのです。
 
 このことから、D. subobscuraの脳内では、fru遺伝子の働く細胞がキイロショウジョウバエの脳と一部、異なっており、その独自の細胞たちが婚姻贈呈を実行すると推察されます。本研究成果は、北米神経科学会誌『ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス』 (Journal of Neuroscience) にて11月7日午前3時(日本時間)に発表されました。
 
 
【用語説明】
*1 婚姻贈呈:特に昆虫で多くの例が知られる。この行動の意味については、雌への栄養供与によって適応価を高める、雌をめぐる雄間の競争で有利になる、など諸説ある。
*2 光を当てると脳細胞が興奮する:光に反応して開口するイオンチャネルであるチャンネルロドプシンを脳細胞に発現させて光照射によってそれを興奮させる光遺伝学的技術を用いる。
*3 ゲノム編集: DNA鎖を細菌などに由来する酵素で切断して、狙った遺伝子を失活させたり、切れ目に外来の配列を組み込んだりする技術で、従来のベクターを使用する遺伝子改変と区別するためにゲノム編集と名付けられた。本研究ではCRISPR-Cas9法を用いている。
*4 fru遺伝子:性決定遺伝子カスケードの一員であり、その産物のFruMは、神経の雄化因子で、クロマチン構造修飾を介して転写を制御する。求愛回路形成のマスターレギュレーターとされる。
 
 
D. subobscuraの婚姻贈呈行動。矢印が雄によって吐き戻された消化物を示す。
 
 
 
【論文の詳細】
 
表題:Optogenetic activation of the fruitless-labeled circuitry in Drosophila subobscura males induces mating motor acts, in press.
Drosophila subobscuraの雄のfruitlessによって標識される神経回路を光遺伝学的に活性化すると配偶行動の運動パターンが惹き起こされる」
 
著者:Ryoya Tanaka, Tomohiro Higuchi, Soh Kohatsu, Kosei Sato and Daisuke Yamamoto
 
雑誌The Journal of Neuroscience
 
 
 
 
 

問い合わせ先

 
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
教授 山元 大輔(やまもと だいすけ)
電話番号:026-217-6218
Eメール:daichan*m.tohokuac.jp(*を@に置き換えてください)
 
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか(たかはし さやか)
電話番号:022-217-6193
Eメール:lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)