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"女性脳"と"男性脳"を切り替えるスイッチ遺伝子を発見-ショウジョウバエでの研究成果-

"女性脳"と"男性脳"を切り替えるスイッチ遺伝子を発見-ショウジョウバエでの研究成果-

2017.11.15 09:27

概要 

 女性と男性とでは、同じものを見たり聞いたりしても、受け止め方に大きな違いがあります。それは脳の回路の組み立てやその働き方に性差があるためと考えられますが、どのような仕組みによって男女の脳の違いが作られるのかは、秘密のベールに包まれていました。
このたび東北大学大学院生命科学研究科の山元大輔教授のグループは、ショウジョウバエの脳回路の雌雄差の研究を通じて、遺伝子のオン・オフを司る一つのタンパク質が、女性脳−男性脳の切り替えスイッチであることを突き止めました。
 研究グループは、脳内で性フェロモンの検出に携わっているmAL*1という名の脳細胞が雄に固有の突起(雄型突起)を持つことに着目して、この突起の有無を左右する遺伝子を探しました。その結果、ティーアールエフ2(TRF2)*2と呼ばれる“月並みな”雌雄共通のスイッチタンパク質が、その鍵を握っていることがわかりました。TRF2は、雌の脳では雄型突起を抑制する遺伝子*3の読み取りをオンにして、脳細胞を雌型にします。雄の脳では、雄型突起抑制遺伝子の読み取りを低下させる雄化タンパク質、フルートレス・エム(FruM)*4の援軍として働いて、抑制遺伝子をほぼ完全にオフにします。その結果、雄型突起は雄の脳細胞だけに作られるのです。
 こうして、TRF2の遺伝子読み取りに対する働きに二面性があり、雄化タンパク質、FruMのない時にはオン・スイッチ、FruMのある時にはオフ・スイッチとして働くこと、そしてこの二面性によって、脳が雌型になるか雄型になるかが決まること、がわかったのです。
 本研究成果は、Springer Nature(UK)発行のonline科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』(Nature Communications)にて11月14日19時(日本時間)に発表されました。
 
 
図:mALニューロンに於けるTRF2の分子レベルでの作用(上段)と細胞レベルでの効果(下段)
左:FruMが存在するときには、FruMの標的遺伝子であるrobo1の転写をFruMとともに抑制する。Robo1タンパク質は同側神経突起の形成を抑制するので、robo1の転写が抑制されると同側神経突起の形成が起こる。
右:FruMがないときにはTRF2はrobo1遺伝子の転写を促進するため、同側突起は形成されない
 
 
【用語説明】
*1 mAL細胞:次の3つの点で性的二型を示す。細胞数が雌は片側あたり5個、雄では30個。反対側突起の先端は雌では二股に分岐するが雄では分岐しない。同側突起は雌にはなく雄だけが持つ。
*2 TRF2:TATA-binding protein-related factor 2。千を超える遺伝子の読み取り(転写)を活性化する働きで知られる転写因子。
*3 雄型突起抑制遺伝子:roundabout1 (robo1)遺伝子のことで、細胞膜に埋設された受容体タンパク質、Robo1を作る。Robo1はSlitというシグナルの結合を受け細胞突起の伸長を止める働きをする。この遺伝子の転写はFruMにより雄では抑制されるため、雄型突起が伸長する。
*4 FruM:雄特異的Fruitless (Fru)タンパク質を指す。FruMは性決定遺伝子カスケードの一員、fru遺伝子の産物で、神経の雄化因子。クロマチン構造修飾を介して転写を制御する。
 
 
【論文の詳細】
 
表題:The core-promoter factor TRF2 mediates a Fruitless action to masculinize neurobehavioral traits in Drosophila.
「プロモーター結合因子のTRF2はショウジョウバエの神経行動形質を雄化するFruitlessタンパク質の作用を仲介する」
 
著者:Zahid Sadek Chowdhury, Kosei Sato & Daisuke Yamamoto
 
雑誌:Nature Communications
 
 
 
 

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
教授 山元 大輔(やまもと だいすけ)
電話番号:022-217-6218
E メール:daichan*m.tohokuac.jp(*を@に置き換えてください)
 
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当:高橋 さやか(たかはし さやか)
電話番号:022-217-6193
E メール:lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)