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研究分野

脳生命統御科学専攻 :
細胞ネットワーク講座

研究

超回路脳機能 分野

超回路脳機能 分野

グリア機能を光で操り、こころの源を探す
 
 脳を構成する細胞同士がどのように信号の受け渡しをしているのか、それを詳細に調べて行く先に、心の実態が見えてくると考えています。神経細胞の間では、シナプス伝達という形で、超高速な情報交換が行われています。ところが、脳をよく見てみると、神経とは異なるグリアという細胞があり、グリアのほうが、神経より数も多く容積も大きいのです。最近の私たちの研究から、グリアは神経の活動に細かく反応していることが分かりました。また、光を用いて細胞の活動を制御できる分子をグリアに発現させ、グリアを選択的に光刺激すると、神経に情報が伝わることが示されました。マウスに麻酔薬を投与すると、神経の活動はほとんど影響を受けないのに、グリアの活動が強力に抑制されるという報告もあります。麻酔によって、選択的に失われるのは何か。意識です。心のもっとも重要な機能のひとつである意識に、グリアは影響しているのかもしれないのです。神経とグリアの間でも信号のやり取りがあり、神経・グリア・代謝回路をまたぐ超回路こそが、脳内情報処理に一層の柔軟性と複雑さを生んでいるという仮説に、私たちは挑戦しています。
 

特色・実績

 ただの音と音楽の違いは、要素が統合(integrate)されているかどうかです。科学とは、一般的に、要素に分解していく作業(要素還元主義)であり、統合は得意としていません。一方、脳では、神経・グリア・代謝を含む、超複雑系が連動して統合された結果、こころの機能が表出されているのだと考えています。統合されたものを統合したまま扱って、それに対して、何らかの理解をすることは可能なのでしょうか。音楽家などの芸術家は、まさに、それに挑戦しているのだと思います。科学者にも、強い意志さえあれば、不可能を可能にし、統合された脳を自然科学の言語で表現し、その動作を予測することもできるようになるのかもしれません。超回路脳機能分野では、細胞・回路・システムといった軸での統合に加えて、神経・グリア・代謝などの質の異なる情報を担う回路を超える統合を理解し、思いのままに制御する技術を確立することを目指しています。
 私たちの研究室で中心になる技術は、電気生理学です。神経細胞と神経細胞の間の信号の伝わりは、電気信号の形で精緻に計測することができます。電気信号の単位は、mVとかpAのオーダーなので、生体の持つごく小さな信号を増幅して記録しなければならず、これは、ノイズとの闘いです。生きているマウスやラットの脳を取り出して、急性脳スライス標本を作製し、ガラス電極を使ったパッチクランプ法という方法で、ひとつひとつの細胞に流れる電気信号を解析します。細胞が生きている間しか記録が取れないので、ここは時間との闘いです。今、見ている瞬間、オシロスコープを介して、脳と言うブラックボックスの中を流れる信号の一部が浮かび上がってくる時の手に汗を握る感覚は、経験した人にしかわかりません。小さな電極とアンプとオシロスコープを介して、私たちは脳のサンプルと対話ができるのです。刺激を与えれば、瞬時に細胞は何らかの答えを出してくれます。この対話を通して、神経系の織り成すネットワークの動作原理を理解することを試みるのです。
 もうひとつの中心的な技術は、オプトジェネティクス(光遺伝学)です。脳の中の特定の細胞種に、光に反応する分子を発現させ、脳に光を照射すれば、その細胞の活動だけを刺激、もしくは、抑制することができます。複雑なネットワークの中で、個々の素子がどのような機能を担っているのかを理解するのに、強力な武器と言えます。私たちの研究室では、この技術を、神経細胞のみならず、従来、非興奮性の細胞と言われていたグリア細胞にも適用しています。グリア細胞の活動を光で操作すると、神経細胞の興奮性、神経細胞間のシナプス伝達、あるいは、シナプス伝達の可塑性など、様々な脳機能が影響されることが明らかになってきました。グリア細胞を、神経細胞とは異なった時空間特性を持つ情報回路の素子として捉えると、脳の持つ限りない複雑性と柔軟性が理解できるような気がします。こういった個々の細胞の持つ活動は、回路の動作に影響を与え、さらに、動物個体全体の行動にも影響を与えます。細胞生理学的な観点と全個体を見晴るかす視点とをつなぐにも、オプトジェネティクスの技術は大いに役立つと考えています。
 2013年、東北大学・医学系研究科の新医学領域創生分野に松井広・独立准教授(当時)が着任し、本分野の元となる研究室がスタートしました。その後、2017年、生命科学研究科に教授として着任し、超回路脳機能分野の名前のもと、研究を発展させております。なお、医学系研究科においても、同分野名で協力講座を設置し、主に、医学・薬学系の6年制大学からの進学者への門戸を開放しています。本研究室には、これまで、東北大学を含め、全国各地の大学の卒業生が集っており、また、医・歯・薬・理・工・農・文など、バックグランドも様々です。私たちの超回路脳機能研究を進めるにあたっては、このようなダイバーシティーこそが命だと考えています。
 これまでの博士後期課程修了生の進路としては、国内外のポスドク研究員・助教・病院勤務などであり、アカデミアでの活躍が主です。しかし、私たちの研究室で身につけた電気生理学・光遺伝学の確かな技術は、アカデミック・ポストのみならず、国内外の製薬会社・医療機器企業等にも、必ず評価されると信じています。所属する大学院生には、海外の研究者との共同研究などにも主体的に関わってもらうことで、国際的に活躍できる人材を育成することも目指しています。研究室主宰者として、様々なキャリアパスを全力で応援していきます。
研究室URL http://www.ims.med.tohoku.ac.jp/matsui/

教員紹介

教授 松井 広
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  • 超高速シナプス伝達解析
  • 細胞間隙における伝達物質拡散解析
  • 光操作技術によるグリア-神経間信号伝達機構の解明
助教 生駒 葉子
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