研究内容

研究内容

受精卵から生物個体を作り出すためには、ゲノムに書き込まれたプログラムにしたがって、細胞が分裂を繰り返しながら多様な細胞種を生み出すことが必要です。

細胞の多様性を作りだすための基本メカニズムは、異なる運命をたどる娘細胞を生み出す細胞分裂であり、「非対称分裂」と呼ばれます。

非対称分裂においては、
1) 細胞極性軸の確立、
2) 極性軸に沿った、細胞運命決定因子の非対称な分配、
3) 極性軸に沿った紡錘体の形成と細胞分裂、
という素過程が順次実施されます。

私たちの研究室では、これらのダイナミックな細胞内現象を分子レベルで解析するために、細胞数が少なく実験生物としてさまざまな利点を持つ線虫C. elegans胚を主なモデル系として用いて解析を進めています。

実験手法としては、遺伝学・細胞生物学・分子生物学・生化学・ゲノム科学的技術を統合的に用い、高時空間分解能ライブイメージング解析法などの技術開発も行います。

線虫初期胚を用いた微小管形成の研究

 生物の体を作る胚発生の過程で、微小管は細胞分裂、細胞極性の形成、細胞内輸送、細胞や細胞内小器官の移動、細胞の変形などの様々な機能を果たしています。
 私たちが研究に用いている線虫C. elegansの初期胚の中では、一つの細胞の中で微小管が様々に使い分けられて胚発生が進行していきます。発生中に行われる体細胞分裂とその前に受精卵の中で行われる減数分裂では、まったく構造の異なる細紡錘体が形成されます。体細胞分裂でも減数分裂でも、作られた紡錘体は細胞内の適切な場所に決まった向きに配置され、細胞を分裂させるために構造を変化させていきます。さらに、紡錘体は受精直後の細胞極性の形成にも関わっていますし、紡錘体以外に細胞質でも微小管が形成され、発生の進行に関わっています。それだけでなく、体細胞分裂の紡錘体に限っても、複数の機構により形成された微小管が使い分けられて構築されます。
 線虫の初期胚は、GFPなどの蛍光タンパク質を用いることで、これらの様々な微小管が作られたり壊されたり移動したりする様子を生体内で観察することができます。また、突然変異体やRNAiによる遺伝子機能破壊や、遺伝子導入を用いて、微小管を制御する遺伝子機能の解析を容易に行うことができます。
 私たちはこれらの利点を生かし、顕微鏡画像解析、遺伝子操作、生化学、分子生物学的手法を組み合わせて、紡錘体形成には、従来知られていた微小管形成機構に加え、今までまったく知られていなかった機構により作られた微小管が関与していることを明らかにしてきました。現在私たちは、これらの複数の微小管形成機構の詳しいメカニズムと、これらの微小管形成機構が、生体内でどのように使い分けられているのかを調べています。

生殖顆粒の形成メカニズム解析

多細胞生物は体細胞と生殖細胞により構成されており、生殖細胞のみが次世代に受け継がれます。『生殖顆粒』は様々な生物の生殖細胞に存在する細胞内小器官であり、生殖細胞への細胞運命の決定に貢献していると考えられています。当研究室では「生殖顆粒がどのように生殖細胞に分配され、どのように細胞運命決定に関わっているのか?」について研究しています。線虫では発生過程が進むにつれて生殖顆粒が生殖細胞にのみ分配される様子を生きたまま観察することができます。

形態形成
線虫胚における表皮形態形成機構の解析

 表皮組織は個体の表面をおおうことで、その内部にある細胞・組織を外界から守る機能を担っている。表皮組織による防御機構が正しく機能するには、表皮細胞が個体発生や治癒の過程で正しい場所に配置される必要がある。しかしながら、生きた個体の中で表皮細胞の動態を詳しく解析できる生物は限られているために、その分子機構は未だ不明な点も多く残されています。
 私たちは、生きた個体の中で細胞動態解析を容易に行うことができる線虫胚表皮形態形成をモデル系として用いることで、多細胞生物で普遍的な表皮細胞動態調節のしくみの解明を行っています。アプローチの特徴としては、表皮形態形成過程における「表皮細胞の細胞変形・細胞移動といった細胞のふるまいを規定する分子の動態と機能」について、生体内分子イメージング、分子遺伝学的解析、生化学的な解析を駆使して解明を行っている点があげられます。