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クラミドモナス光受容体チャネルロドプシンの光電変換メカニズム

クラミドモナス光受容体チャネルロドプシンの光電変換メカニズム

2009.04.01 11:18

緑藻類の光受容メカニズムの解明が脳・神経科学を推進する

クラミドモナス光受容体チャネルロドプシンの光電変換メカニズム

所属:生命機能科学専攻・脳機能解析分野
名前:石塚 徹八尾 寛
URL:http://neuro.med.tohoku.ac.jp

池や沼などに普通に生息している単細胞緑藻類の一種クラミドモナスは、走光性や光驚動性を示します。これは、眼点上の膜に分布する古細菌型ロドプシンファミリータンパク質チャネルロドプシンの働きによります。クラミドモナスにおいては、2種類の分子、チャネルロドプシン1とチャネルロドプシン2が報告されています。これらは、高い相同性があり、ともに光を受容して非特異的陽イオンチャネルを開口する特徴がありますが、吸収波長特性、光電流キネティクスなどにおいて異なる性質を有しています。脳機能解析分野の大学院生、王紅霞さん(博士課程3年)らの研究により、チャネルロドプシン1と2の性質の違いが1個のアミノ酸残基により決定されることを解明しました。彼女らは、チャネルロドプシンの7回膜貫通構造に着目し、それぞれの膜貫通へリックスを含む7つのセグメントに分割しました。チャネルロドプシン2のN末のセグメントを相同なチャネルロドプシン1のセグメントに順次置き換えたキメラタンパク質cDNAを作製し、培養HEK293細胞に発現させ、パッチクランプ法により光電流を計測する方法により、どのセグメントを置き換えたときに光電流の性質が、チャネルロドプシン2から1に変化するかを解析しました。その結果、第5膜貫通へリックスを含むセグメントを置換することにより、吸収波長特性、光電流キネティクスともにもっとも顕著に変化しました。さらに第5膜貫通へリックスの中央付近のTyr226/Asn187が吸収波長特性および光電流キネティクスの機能決定基であることがわかりました。また、同分野の杉山友香さん(医学系研究科博士課程4年)は、チャネルロドプシンの第2膜貫通へリックスの構造が他の古細菌型ロドプシンと際立って異なり、グルタミン酸残基を多く含むことに注目し、これらを順次非極性アミノ酸残基のアラニンに置換した分子の機能を解析しました。その結果、チャネルロドプシン2のGlu97がイオンチャネルとしての性質の機能決定基であることがわかりました。
 遺伝子工学を用いて、チャネルロドプシン2を神経細胞に導入することにより、神経細胞に光感受性をもたせることができます。これにより、神経細胞を光刺激する方法が開発され、脳・神経科学を推進することが期待されます。また、色素変性症などにより失われた視覚機能の再建など、脳・神経疾患の治療への応用も展望されています。脳機能解析分野において行われた構造ー機能連関解析研究は、これらの応用に最適化されたチャネルロドプシンの創出に役立ちます。たとえば、チャネルロドプシン1と2のキメラタンパク質の一つ、チャネルロドプシン・ワイドレシーバーは、両者の性質の優れたところを併せ持っており、神経細胞の光刺激において、野生型のチャネルロドプシン2よりも優れています。

本研究の成果は以下の論文に掲載されました。
Hongxia Wang, Yuka Sugiyama, Takuya Hikima, Eriko Sugano, Hiroshi Tomita, Tetsuo Takahashi, Toru Ishizuka, and Hiromu Yawo (2009) Molecular determinants differentiating photocurrent properties of two channelrhodopsins from Chlamydomonas. J. Biol. Chem. 284, 5685 - 5696.
Yuka Sugiyama, Hongxia Wang, Takuya Hikima, Minami Sato, Jun Kuroda, Tetsuo Takahashi, Toru Ishizuka, Hiromu Yawo (2009) Photocurrent attenuation by a single polar-to-nonpolar point mutation of channelrhodopsin-2. Photochem. Photobiol. Sci. 8, 328-336.
チャネルロドプシンを神経細胞の光刺激に応用する方法については、東北大学の特許出願が世界に先駆けています(特開2006-217866、2005年2月出願)。この経緯については以下のトピックス記事に詳細が掲載されています。
石塚徹、八尾寛「光受容イオンチャネル・チャネルロドプシン2を用いたニューロンの光刺激」生物物理48(3), 180-184 (2008) http://www.jstage.jst.go.jp/browse/biophys/
また、構造ー機能連関にもとづいて新しいチャネルロドプシンを創出する方法についても、東北大学からPCT特許出願しています(特願2008-076538、2008年3月出願;PCT/ 2008-076538、2009年3月出願)。