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ゲノム情報から侵略的外来種を予測 ~生態系被害防止への応用に期待~

ゲノム情報から侵略的外来種を予測 ~生態系被害防止への応用に期待~

2019.02.27 15:00

発表のポイント

  • 侵略的外来種による生態系の破壊が世界中で問題となっており、侵略種の拡散を防ぐことの重要性が高まっています。
  • 外来種が原産地外で生息域を拡大するまで、その生物が持つ侵略性の高さを把握することはこれまで困難でした。また、外来種のどのような遺伝的性質が新規環境での適応を可能としているのかは不明でした。
  • 本研究では、ヒアリなどの侵略的外来種を含む34種の動物を対象に比較ゲノム解析を行い、遺伝情報に基づいた侵略性の高さの予測に成功し、外来種が新規環境へ適応進化可能にする遺伝的基盤を提示しました。
  • この革新的なアプローチは、保全生物学の分野への応用が期待されます。
 

概要

 東北大学大学院生命科学研究科の牧野能士教授と河田雅圭教授は、侵略的外来種のゲノム中に重複遺伝子(注1)が多く含まれていることを発見しました。本研究は、ゲノム中に重複遺伝子の多さが、新規環境での適応能力の高さに関与することを初めて示しました。この研究は、侵略的外来種が持つ環境適応力の高さをゲノム情報から予測可能であることを示す重要な報告であり、保全生物学分野への応用が期待されます。本研究結果は、2月27日付のMolecular Ecology誌(電子版)に掲載されました。
 
 

詳細な説明

 侵略的外来種による生態系の破壊が世界中で大きな問題となっています。ヒアリなどの特定の侵略種は、異なる地域に何度も侵入・定着し、生息範囲を拡大し続けています。このように侵略性の高い生物の存在は知られていますが、生態系被害が拡大するまで、それらの生物の侵略性の高さを把握することは困難な状況です。
 生物が新しい環境で適応するのには、高い遺伝的な多様性が必要であると考えられています。しかし、移入初期の外来種は個体数が少なく、それらが保有している遺伝的多様性は低いと考えられます。侵略的外来種がなぜ少数個体から新規環境に適応できるのかについて、どのような遺伝的性質が関わるのか不明でした。
 我々は、これまでに多様な環境に生息している生物種ほどゲノム中に多くの重複遺伝子(注1)を維持していることを見出しました。このことから、環境適応力の高い侵略的外来種のゲノム中には、重複遺伝子が多く含まれるのではないかと考えました。
 ゲノム配列が既知である34種の動物を侵略的外来種(9種)と普通種(25種)の2グループに分類し、ゲノム中の重複遺伝子含有率を比較しました。予想に反して、2グループ間で重複遺伝子含有率に違いは観察されませんでした。ここで、今回用いた生物の情報を精査したところ、重複遺伝子含有率は生物の散布体サイズ(親から独立したときの子どもの大きさ; 注2)と負の相関があることを発見しました(図1)。そこで、散布体サイズを考慮した上で、重複遺伝子含有率を比較すると、侵略的外来種は、普通種よりも重複遺伝子含有率が高いことが明らかになりました。この結果は、ゲノム中の重複遺伝子の多さが、新規環境での適応能力の高さに関与することを示しています。
 これらの研究成果は、重複遺伝子含有率が侵略的外来種の指定や絶滅危惧種の選定の指標に利用できる可能性を示しており、全く新しいアプローチによる科学的な生態系保全の推進が期待できます。
 
 
【用語説明】
(注1)重複遺伝子: ゲノム上で重複(コピー)が起きた遺伝子。遺伝子の重複により、2つになった遺伝子には変異が蓄積しやすくなります。変異により今までになかった新しい遺伝子機能が生み出される可能性が高まります。このように、遺伝子の重複は遺伝的な多様性や新規性を生み出すメカニズムとして注目されています。
(注2)散布体サイズ: 生物が分布を拡大する際の子孫の大きさ。卵のサイズが一般的ですが、子育てする生物においては、親離れする際の子供の大きさが散布体サイズとなります。

 

 
 
図1. 重複遺伝子含有率、散布体サイズ、生物分類(侵略的外来種/普通種)の関係。重複遺伝子含有率と散布体サイズには強い負の相関が観察されました。侵略的外来種()は図中右上に偏って分布しており、同程度の散布体サイズの生物種の中で重複遺伝子含有率が高いことが分かりました(ただし、現在も食用として流通しているカキではそのような傾向は観察されませんでした)。
 
 
 
【論文題目】
題目:Invasive invertebrates associated with highly duplicated gene content
著者:Takashi Makino and Masakado Kawata
雑誌:Molecular Ecology
DOI:10.1111/MEC.15019
 
 
 
 
 
 
【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科 
担当:牧野 能士(まきの たかし)
電話番号:022-795-5585
E-mail:tamakino(at)tohoku.ac.jp
              
<報道に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科
担当:高橋 さやか (たかはし さやか)
電話番号: 022-217-6193
E-mail: lifsci-pr(at)grp.tohoku.ac.jp