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温室効果ガスを消去する微生物が優占する土壌物理条件を解明~土壌団粒の孔隙ネットワークがN2O消去菌の群集活性を制御する~

温室効果ガスを消去する微生物が優占する土壌物理条件を解明~土壌団粒の孔隙ネットワークがN2O消去菌の群集活性を制御する~

2025.01.17 16:00

概要

 このたび、愛媛大学大学院農学研究科 光延聖准教授と、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) 和穎朗太上級研究員の研究グループは、東北大学大学院生命科学研究科の加藤広海特任助教、佐藤修正教授、南澤究教授との共同研究にて、農地土壌から大量に発生する温室効果ガス(N2O)を消去する微生物の群集活性が土壌団粒内の孔隙ネットワークによって大きく制御されることを突き止めました。この研究成果は、(1)不明な点が多い土壌の N2O 発生・消去メカニズムの解明、(2)N2O 発生抑制を目的とする土壌管理法、(3)微生物を使った N2O 消去資材の開発、を進める上で重要な基礎知見となります。
 なお、本研究の成果は、Soil Biology and Biochemistry に掲載され、令和6年 12 月12 日にオンライン公開されました。
 
 
 亜酸化窒素(N2O)*1は強力な温室効果ガスかつオゾン層破壊物質です。最大の人為的発生源は窒素肥料が大量投入される農地土壌ですが、土壌は非常に複雑な物質であるため、土壌 N2O の発生・消去機構には未解明な点が多いのが現状です。本研究では、土壌の構成要素かつ微生物の“すみか”でもある土壌団粒*2において、N2O 消去微生物*3の活性と群集がどのような土壌条件(孔隙特性、酸素と N2O 濃度、酸化還元電位、pH など)によって支配されるのか、団粒1粒子のミクロスケール観察によって丹念に調べました。土壌団粒の孔隙は団粒外大気と繋がった孔隙(Open 孔隙)と繋がっていない孔隙(Closed 孔隙)に大別されます。本研究では、Closed 孔隙が多い団粒内部では大気 O2流入速度の低下によって無酸素環境が形成され、N2O 消去微生物の群集割合が大きく上昇することを見出しました。この現象は黄色土など風化の進んだ粘土質の土壌で観察されやすく、この土壌タイプでは団粒自体が N2O 消去のホットスポットとして機能することを示します。微生物作用による土壌 N2O の消去に関連して多くの研究がなされてきましたが、本研究では土壌団粒の 1 粒子分析法を独自に開発、応用することで、ミクロスケールの孔隙ネットワークによって土壌のN2O消去活性が制御されることを初めて突き止めました。本研究成果は(1)不明な点が多い土壌の N2O 発生・消去メカニズムの精緻化、(2)N2O 発生抑制を志向した土壌管理、(3)微生物を使った N2O 消去資材の開発を進めていく上で重要な知見です。
 
 
 
図. 黄色土壌団粒中の孔隙ネットワーク(左). Closed 孔隙とN2O 消去菌の団粒深度プロファイル(右).
 
 
*1: N2O とは、二酸化炭素の約300 倍の温室効果をもつ強力な温室効果ガスかつオゾン層破壊物質であり、窒素肥料を大量に消費する農耕地土壌が最大の人為的発生源とされる。世界的な人口増加に伴い今後も発生量が増加し続けると予想され削減対策が急務とされる。
*2: 土壌団粒とは、土壌中の微粒子が結合して粒子状になった物体のこと。土壌の構成要素であり、保水性、通気性を高める機能を持つ。N2O 還元菌を含め多くの土壌微生物は団粒内に生息する。
*3: N2O 消去微生物とは、N2O ガスを無害な窒素ガスへ還元変換することができる微生物のこと。N2O還元菌ともいう。土壌に偏在しており、群集の量比・活性が土壌N2O の発生(消去)量を左右する。
 
 
【論文情報】
S. Mitsunobu, R. Wagai, H. Shimada, H. Kato, K. Ito, S. Sato, M. Hayatsu, K. Minamisawa (2025) First microscale data on depth profiles of microbial N2O reduction, O2 availability, and pore networks inside contrasting single soil aggregates. Soil Biology and Biochemistry.
 
 
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