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種分化を起こす遺伝子は適応進化にも寄与する

種分化を起こす遺伝子は適応進化にも寄与する

2010.12.04 15:34

ネイチャーコミュニケーションズに掲載

種分化を起こす遺伝子は適応進化にも寄与する

所属:生態システム生命科学専攻 群集生態分野
名前:細 将貴

種分化のメカニズムを解明することは進化生物学における最大の研究命題のひとつである。カタツムリでは巻き方向が逆転することによって達成されるという単純でユニークな種分化の仕組みが知られている(図1)。しかしこの種分化の完成には,集団中の大多数と交尾のできない逆巻き変異個体が頻度を増すという,自然選択に逆らった過程を経る必要がある。この理論上はありえない進化がなぜ可能だったのかは,ながらく謎とされてきた。

図1.左巻き(左)と右巻き(右)のカタツムリ

細将貴特別研究員らは,この謎めく逆巻きカタツムリの種分化が,カタツムリ食の特殊なヘビから逃れるための適応進化として引き起こされたことを発見した。この発見により,ひとつの遺伝子が種分化と適応進化の両方に大きな効果を持つこと実証された。従来の常識を覆すこの研究成果は,英国の学術専門誌ネーチャーコミュニケーションズ(Nature Communications) に12月8日午前1時(日本時間)付けでオンライン発表された。

東南アジアにはカタツムリを専食する特殊なヘビ類(セダカヘビ類)が知られている。細将貴特別研究員らのこれまでの研究により,これらのヘビが多数派である右巻きのカタツムリを効率よく捕食するために特殊化していることがわかっている(図2)。

図2.右巻きのカタツムリを捕食しているセダカヘビの一種

本研究では,食べられにくいという左巻きのアドバンテージが,交尾しづらいという不利を補い,左巻きへの進化を容易にしたという可能性に着眼した。そして文献調査とカタツムリの系統解析の結果,セダカヘビ類が分布する地域では分布しない地域に比べて,巻きの逆転による左巻きカタツムリの種分化が遥かに頻繁に起きていることが判明した(図3,4)。

図3.セダカヘビ類の分布する地域(黒いバー)と分布しない地域(白抜きのバー)のそれぞれで,カタツムリの全属を平巻き(左)と細長(右)の2タイプに分け,サイズレンジごとに左巻きの属の割合をみたもの。バーの上にある数字は,各レンジに当てはまった属の数の総和(右巻き+左巻き)。ヘビの分布する地域で左巻きが多いという傾向が,より襲われやすい大型のタイプ,および逆巻きになったときの交尾が困難な平巻きタイプで顕著である。とはいうものの依然として右巻きが多数派なので,セダカヘビ類は右巻きの捕食に特化し続けている。

図4.ニッポンマイマイ属の分布(左)と系統関係(右)。左巻きの種(赤)はセダカヘビ類の分布(オレンジ)する琉球列島の南部に集中して分布し,しかも右巻きの系統(青)から複数回にわたって起源している。

適応進化が種分化を引き起こすという可能性を最初に着想したのはダーウィンだが,本研究ほどはっきりと実証した例はこれまでほとんどなく,特に,捕食者に対する適応進化の結果として種分化が起きることを示した研究は稀である。また本研究により,たったひとつの遺伝子の変異が,種分化のみならず適応進化にも甚大な影響を持ちうることが示された。このことは,大きな効果をもつ突然変異はそのほとんどが有害であり進化には寄与しないという,生物学における一般的な認識に修正を迫る成果である。

本研究成果はネイチャーコミュニケーションズに掲載されました
http://www.nature.com/ncomms/journal/v1/n9/full/ncomms1133.html
Hoso, M., Kameda, Y., Wu, S. P., Asami, T., Kato, M. & Hori, M. (2010) A speciation gene for left-right reversal in snails results in anti-predator adaptation. Nature Communications 1: 133. (doi:10.1038/ncomms1133)

本研究成果は,12月7日付けNature News,12月8日付け東北放送テレビNスタみやぎ,仙台放送スーパーニュース,河北新報,日経新聞,毎日新聞,産経新聞,読売新聞東北版,Yahoo! ニュース,BBC Earth News,FOX Newsほか,12月15日付け朝日小学生新聞,12月16日付けNature等でも紹介されました。
http://www.nature.com/news/2010/101207/full/news.2010.658.html