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植物成長に伴う細胞壁ペクチン合成の仕組みを解明 〜植物の陸上進出の鍵でもあった〜

植物成長に伴う細胞壁ペクチン合成の仕組みを解明 〜植物の陸上進出の鍵でもあった〜

2018.08.08 10:00

発表のポイント

  • 植物はペクチンを主成分の一つとする細胞壁を合成しながら成長する。
  • ペクチン主鎖を合成する糖転移酵素を発見し、ペクチン合成の仕組みを解明した。
  • この酵素は、これまで報告されていない遺伝子ファミリーに属していた。
  • この遺伝子ファミリーは、植物の陸上化と共に現れたもので、ペクチン合成は植物の陸上化の鍵を握る。

概要

 生命科学研究科植物細胞壁分野の西谷和彦教授と黒羽剛助教は、立命館大学(学長:吉田美喜夫)生命科学部の石水毅准教授、加藤耕平(大学院生)、立命館グローバル・イノベーション研究機構の竹中悠人博士研究員らの研究グループ、また、名古屋大学、甲南大学との共同研究で、植物が成長する際に作られる植物細胞壁(注1)成分ペクチン(注2)の合成の仕組みを世界で初めて明らかにしました。ペクチンは複数の糖成分が鎖のようにつながって形成されますが、その主鎖を合成する糖転移酵素(注3)を発見し、この酵素が新しい遺伝子ファミリー(注4)に属することを見出しました。この遺伝子ファミリーは植物の陸上化(注5)と共に現れたものであり、ペクチンを作るようになったことが、植物が進化の過程で陸上化した一つの要因であることを示しました。本発見により、植物の伸長成長の仕組みの一端が明らかとなり、成長を早めた作物の育種に応用できます。ペクチンはゲル化剤として食品添加剤にも用いられており、発見した酵素を活用して新規機能を持つゲル化剤の開発への応用も考えられます。
 本成果は、2018年8月6日英科学誌Natureの姉妹誌「Nature Plants」2018年8月号に掲載されました。また2018年8月号のNews & Viewsのコーナーで本研究が記事として紹介されます。本研究は、文部科学省科学研究費補助金、日本学術振興会科学研究費、立命館グローバル・イノベーション研究機構の支援を受けて行われました。

 

詳細な説明

 

 植物細胞の最大の特徴の一つは細胞壁があることです。細胞壁は植物細胞の成長や形作りに貢献しています。また、細胞壁は細胞成長に伴って伸びていく柔軟さと、重力に逆らって垂直方向に伸びていく強固さとを兼ね備えています。この細胞壁はセルロース、ペクチン、ヘミセルロースなど、多様な多糖で構成されています。このうち、ペクチンの合成は細胞の成長に伴って活発に行われます。またペクチンは細胞間に豊富に存在することから、細胞接着にも関わると考えられています。ペクチンはゲル化剤として食品に利用されており、我々の生活を支えている身近な植物成分でもあります。植物にも人にも大事なペクチンの機能を解明するために、ペクチン合成酵素の同定、ペクチン合成の仕組みの解明が長年望まれていました。

 
 
 
図1. 植物の成長に関わる細胞壁ペクチンの合成酵素を発見した
 
 
 ペクチンは複数種類の糖が結合した非常に複雑な構造をした多糖で、それらの構造は約30年前に決定されました。しかし、ペクチン合成に関わる酵素の検出が難しく、これまでに主鎖を合成する酵素さえ、同定されていませんでした。当研究グループでは、ペクチン合成に関わる酵素の活性を検出する方法を長年に渡って確立してきました。今回の研究では、ペクチンのみが集積される種子を保護する多糖(ムシレージ)に注目しました。種子が発達していく段階の中で、種子保護多糖が合成される時期の発現遺伝子を網羅的に解析することで酵素遺伝子を選抜しました。確立した酵素活性検出法を適用することで、ペクチンの主鎖の合成に関わる新たな糖転移酵素遺伝子を、シロイヌナズナから4種類発見しました。この酵素の解析法を確立していたのが当研究グループのみであったことが、世界に先駆けての発見に結びつきました。
 同時に、これらの酵素遺伝子が新しい遺伝子ファミリーに属することも見出しました。このファミリーは、水生植物には見られず、陸上植物に見られることから、重力に逆らって垂直に伸びていく陸上植物の性質が獲得されたのは、ペクチンが合成されるようになったためと推測されました。進化の過程で、この遺伝子ファミリーを獲得することが、植物の陸上化を可能にした一つの要因と思われます(図2)。この遺伝子ファミリーはとても大きいファミリーで、まだ未知として残されている他のペクチン側鎖の合成に関わる遺伝子が多く含まれていると考えられました。すなわち、本研究成果は、長年未解明であったペクチン合成の仕組みの解明に扉を開いた画期的な発見です。
 
 
図2. ペクチン合成に関わる酵素遺伝子は陸上植物に存在する
 
 
【用語説明】
(注1)植物細胞壁:植物細胞の外側を取り囲み、セルロース、ヘミセルロース、ペクチンの多糖類、リグニンを主成分とする構造体。ペクチンに富み、成長時に合成される一次細胞壁と、セルロースやリグニンに富み、成長終了後に肥厚する二次細胞壁に分けられる。
(注2)ペクチン:成長に関わる一次細胞壁や細胞接着に関係する細胞間に多く存在する。ガラクツロン酸、ラムノースなど13 種類の糖成分から構成される複雑な構造をしている。ラムノガラクツロナンI、ラムノガラクツロナンII、ホモガラクツロナンといった3つのドメインから構成されている。条件によってゲル化する性質をもつ。
(注3)糖転移酵素:糖を転移して、多糖などの糖質化合物を合成する酵素の総称。糖鎖の構造は糖転移酵素の特異性により決められている。
(注4)遺伝子ファミリー:塩基配列および機能が類似している遺伝子群。進化の過程で現れたり、遺伝子重複により数が増えたりする。
(注5)植物の陸上化:進化の過程で植物の祖先が水中から陸上へ進出したこと。約5億年前に、緑藻類から進化して車軸藻類(もっとも原始的と考えられている陸上植物)が現れたと考えられている。
 
 
 
【論文の詳細】
 
題目:Pectin RG-I rhamnosyltransferases represent a novel plant-specific glycosyltransferase family(ペクチン合成に関わるRG-Iラムノース転移酵素は新規植物特異的糖転移酵素ファミリーの一つである)
 
著者:Yuto Takenaka(立命館大学), Kohei Kato(立命館大学), Mari Ogawa-Ohnishi(名古屋大学), Kana Tsuruhama(立命館大学), Hiroyuki Kajiura(立命館大学), Kenta Yagyu(立命館大学), Atsushi Takeda(立命館大学), Yoichi Takeda(立命館大学), Tadashi Kunieda(甲南大学), Ikuko Hara-Nishimura(甲南大学), Takeshi Kuroha(東北大学), Kazuhiko Nishitani(東北大学), Yoshikatsu Matsubayashi(名古屋大学), and Takeshi Ishimizu(立命館大学)
 
雑誌:Nature Plants (2018年8月号)Volumn 4
DOI: 10.1038/s41477-018-0217-7
 
 

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
担当 西谷 和彦(にしたに かずひこ)
電話番号: 022-795-6700
Eメール: nishitan(at)m.tohoku.ac.jp