GO TOP

Research

Research

Research

可溶性蛋白質の分泌を制御する必須因子として Rab6を同定! 〜ゴルジ体での可溶性蛋白質と膜蛋白質の選別に新たな仕組みを示唆〜

可溶性蛋白質の分泌を制御する必須因子として Rab6を同定! 〜ゴルジ体での可溶性蛋白質と膜蛋白質の選別に新たな仕組みを示唆〜

2019.05.10 09:00

発表のポイント

  • 細胞内小胞輸送のマスター制御因子であるRabファミリーの網羅的なノックアウト細胞株の樹立に成功
  • Rab6ノックアウト細胞で、コラーゲンなどの可溶性蛋白質の細胞外への分泌が阻害(一方、膜蛋白質の細胞膜への輸送には大きな影響無し)
  • これまで考えられていたゴルジ体での可溶性蛋白質と膜蛋白質の輸送小胞への選別機構に一石を投じる発見
     

概要

 国立大学法人東北大学は、コラーゲンなどの可溶性蛋白質の分泌を制御する必須の因子としてRab6を同定することに成功しました。これは、東北大学大学院生命科学研究科の本間悠太助教、福田光則教授らによる研究成果です。
 私達の体を構成する細胞は、「分泌経路*1」と呼ばれる小胞輸送のシステムを用いて可溶性蛋白質を細胞外に放出したり、細胞膜に膜蛋白質などを輸送したりしています。粗面小胞体で合成された可溶性蛋白質や膜蛋白質はゴルジ体に運ばれた後、輸送小胞に積み込まれて、細胞膜まで輸送されます。この際、可溶性蛋白質と膜蛋白質はどちらも同じ輸送小胞に選別されると一般的に考えられていますが、可溶性蛋白質専用の小胞や膜蛋白質専用の小胞が本当に存在しないのかどうかは、これまで実験的に検証されていませんでした。
 今回、研究グループは小胞輸送のマスター制御因子である「低分子量G蛋白質Rabファミリー*2」の網羅的なノックアウト(KO)細胞株のコレクションを世界に先駆けて作製し、Rab6が可溶性蛋白質の分泌に必須であることを見出しました。一方、Rab6のKO細胞でも細胞膜上の膜蛋白質の量には大きな影響が見られなかったことから、膜蛋白質の輸送には可溶性蛋白質の輸送とは異なる仕組みの存在が強く示唆されます。本研究成果は、ゴルジ体での蛋白質の選別機構に一石を投じる発見であり、今後その分子機構が解明されれば、教科書の記載の変更にもつながることが期待されます。
 本研究成果は、米国の国際科学誌『Journal of Cell Biology』の電子版(2019年5月9日付)に掲載されました。

 

 
【図及び説明】
 
 
図1 分泌経路の概要とゴルジ体での積み荷分子の輸送小胞への積み込み
(上段)真核細胞の細胞内には、膜で包まれた細胞小器官(オルガネラ)が多数存在しています。これらのオルガネラの間では、小胞を介して物質のやり取りが頻繁に行われており(→)、その輸送経路のネットワークは首都圏の地下鉄網に例えることができます。中でも、最も有名な輸送経路が「分泌経路」(緑色の矢印:粗面小胞体、ゴルジ体を経由して、細胞膜へ積み荷分子を輸送)で、細胞外への可溶性蛋白質の分泌(放出)や、膜蛋白質の細胞膜への輸送の役割を担っています。
(下段)粗面小胞体から運ばれてきた積み荷分子は、ゴルジ体で糖鎖などの修飾を受けた後、輸送小胞へと選別され、目的地の一つである細胞膜へと輸送されます。この時、可溶性蛋白質(小胞の内部に存在:ピンク色)と膜蛋白質(小胞の膜に突き刺さって存在:水色)は同じ輸送小胞に選別されると広く信じられています(従来モデル)。しかし、両者が実際に同じ小胞に選別されているという確証はこれまで得られていませんでした。今回の発見では、少なくとも膜蛋白質は可溶性分子とは別個の小胞で細胞膜へと輸送されることが強く示唆されています。
 
 
 
【用語解説】
*1 分泌経路
 細胞は細胞膜によって外界から隔てられており、細胞間の情報交換などを行うために、様々な蛋白質(例えば、後述*3のコラーゲンなどの細胞外マトリックス成分)を細胞外に分泌(放出)しています。このような分泌蛋白質はリボソームで合成された後、小胞体、ゴルジ体を経て、最終的に細胞膜まで到達し、細胞外へと分泌されています(図1参照)。小胞体、ゴルジ体、細胞膜の間の輸送は、分泌蛋白質を輸送小胞に包み込んだ形で行われており、この一連の流れは「分泌経路」と呼ばれています。2013年には、分泌経路の基本的な仕組みの解明に対して、ノーベル生理学・医学賞が贈られています。
 
*2 低分子量G蛋白質Rab
 細胞内の小胞や膜の輸送を適切に行うためには 交通整理人(制御蛋白質)の存在が不可欠です。この交通整理人の一つとして全ての真核生物に存在しているのが低分子量G蛋白質Rabです。ヒトを含む哺乳類は58種類のRab遺伝子を共通して持っており、それぞれのRabが固有の小胞輸送経路を制御する(例えば、本研究で明らかになったRab6は可溶性蛋白質の分泌経路に関与する)と考えられています。
 
 
【論文情報】
 
題目:Comprehensive knockout analysis of the Rab family GTPases in epithelial cells

著者:Yuta Homma, Riko Kinoshita, Yoshihiko Kuchitsu, Paulina S. Wawro, Soujiro Marubashi, Mai E. Oguchi, Morié Ishida, Naonobu Fujita & Mitsunori Fukuda

雑誌:Journal of Cell Biology

DOI:10.1083/jcb.201810134

 
 
 
 
 
 
 
【問い合わせ先】
<研究に関すること>
担当 福田 光則 (ふくだ みつのり)
電話番号: 022-795-7731(or 022-795-3641)
Eメール: mitsunori.fukuda.c1(at)tohoku.ac.jp
 
<報道に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか (たかはし さやか)
電話番号: 022-217-6193
Eメール: lifsci-pr(at)grp.tohoku.ac.jp