【発表のポイント】
- 植物の受精卵の中にあるミトコンドリアを初めてリアルタイムで観察し、ミトコンドリアが2つの娘細胞へ不均等に分配される仕組みを明らかにした。
- 受精卵と他組織の細胞を比べたことで、ミトコンドリアが受精卵に特異的な形態変化を経ることを発見した。
- 細胞内のレベルで、植物の発生戦略の理解が進むことが期待される。
概要
植物は複雑な形をしていますが、それらの発生は受精卵にまで遡ることができます。ほとんどの被子植物において、受精卵は非対称に分裂します。その際、新規に合成できない共生オルガネラが、適切に分配されているかは不明でした。東北大学大学院生命科学研究科の木全祐資助教、植田美那子教授らの研究グループは、名古屋大学、熊本大学、東京大学との共同研究により、モデル植物の一つであるシロイヌナズナにおいて、受精卵の分裂時に、共生オルガネラであるミトコンドリアが非対称に分配される動態を明らかにしました。受精卵内部の様子をつぶさにライブイメージングし、特異的な阻害剤や画像解析手法を組み合わせたことで、アクチン繊維に沿ってミトコンドリアが方向性をもって移動し、次いで細胞分裂時に一過的に断片化して娘細胞へ分配されるという、ダイナミックな時空間的制御を見出しました。今回の発見は、受精卵の第一分裂の時点で、主要なエネルギー供給源であるミトコンドリアの分配に格差があることを示しており、植物の発生戦略の理解が進むと期待されます。
本研究成果は2020年11月30日にQuantitative Plant Biology誌の創刊号にオンライン掲載されました。
【図】
(上段)シロイヌナズナの受精卵が第一分裂する際に、2つの娘細胞にミトコンドリアが非対称に分配される仕組みの模式図。まず、上下に並んだアクチン繊維に沿ってミトコンドリアが連結し、上側に移動して不均等に分布する(不等分布)。次いで、細胞分裂時にミトコンドリアが一過的に断片化することで、この分布を保ったまま分裂し、上側の娘細胞に多くのミトコンドリアが濃縮される(不等分配)。
(下段)ミトコンドリア(緑)と核(ピンク)を蛍光標識した受精卵のライブイメージング像。細胞分裂の前後を捉えている。左上の数字はライブイメージング開始からの時間(時:分)を、スケールバーは10マイクロメートル(µm)を表す。左下の枠内はミトコンドリアの拡大像を示す。
【論文情報】
題目:Mitochondrial dynamics and segregation during the asymmetric division of Arabidopsis zygotes
著者: Yusuke Kimata, Takumi Higaki, Daisuke Kurihara, Naoe Ando, Hikari Matsumoto, Tetsuya Higashiyama, and Minako Ueda
筆頭著者情報:木全 祐資 東北大学大学院生命科学研究科
雑誌:Quantitative Plant Biology /電子版
発行:2020年11月
【お問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
担当 植田 美那子(うえだ みなこ)
電話番号: 022-795-6713
Eメール: minako.ueda.e7(at)tohoku.ac.jp