植物の形は複雑で、花や葉だけでなく根や茎など、さまざまな器官を作ります。その形作りの基礎となるのが「体軸」という方向性です。多くの植物では、まず受精卵が上下に非対称に分裂して上下軸を確定します(図)。しかし、被子植物の受精卵は花や種子の奥深くで発生するため、受精卵の中でどのように偏りが生じ(極性化)、どうやって非対称に分裂するのか、これまで分かっていませんでした。

私たちは、シロイヌナズナを用いて、植物の受精卵の内部構造をリアルタイムで観察することに成功し、受精卵の細胞骨格やオルガネラがダイナミックに形や場所を変えることで、受精卵が極性化するという動態を発見しました。例えば微小管は、受精する前には上下軸に沿って配向していますが、その並びは受精すると崩壊します。次いで、微小管はリング状の構造を作って受精卵を細長く伸長させます。一方、アクチン繊維は上下軸に沿って配向し、上方向への核の移動を担います。

微小管と核のライブイメージング
Kimata et al. (2016), Movie S1

また、植物の細胞の大半を占める液胞は、受精すると急速に脱水して小さくなります。その後、核の周りで細長い管状の構造を作り、徐々に下方向に移動します。液胞の柔軟性が低下したsgr2欠損株では、管状の構造が作られず、液胞が下方向に移動できません。その結果、受精卵の上部に巨大な液胞が残ってしまい、それに阻まれて核が上部まで到達できず、ほぼ対称な分裂になります。つまり、液胞は柔軟に形を変えながら下側へ移動することで、反対側への核の移動をサポートし、非対称分裂を実現させる役割を担います。

受精卵が非対称に分裂すると、液胞をほとんど持たない小さな始原細胞と、巨大な液胞を持つ大きな支持細胞が作られます。sgr2欠損株では、上下の細胞がともに大きく、巨大な液胞を受け継ぐことになりますが、その後の胚発生過程でも巨大な液胞が残り、胚のパターン形成が損なわれ、最終的に子葉の数も異常になりました。植物では、活発に細胞分裂する細胞には、ほとんど液胞が含まれないことが知られているため、sgr2欠損株では始原細胞に多くの液胞が受け継がれてしまったことにより、胚の発達が損なわれたと考えられます。

液胞と核のライブイメージング(野生型)
Kimata et al. (2019), Movie S1

液胞と核のライブイメージング(sgr2変異体)
Kimata et al. (2019), Movie S2

このように、液胞が積極的に形を変えることで細胞の極性化や形作りを制御するという発見は、単なる受動的な「水袋」だと考えられてきた、これまでの液胞のイメージを覆すものでした。そこで、先入観に囚われず、さまざまな細胞内構造を精緻にライブイメージングし、阻害剤や変異体を駆使して役割を判定することで、従来の研究手法では見出し得なかった、発生の仕組みを細胞内のレベルから解き明かせると期待しています。

A. ライブイメージング像の位置ずれを補正する画像処理によって、細胞の形態変化を詳細に解析できる。B. シロイヌナズナ受精卵では細胞伸長の終盤に一家的に太さと伸長速度が増大する。(Kang et al., 2023, PCP)

また、取得したライブイメージング像のブレを補正する新たな画像解析法も適用し、受精卵がどのように細胞伸長するかを精緻に追跡しました。その結果、受精卵は細胞の先端だけが成長する「先端成長」という様式で伸長することや、細胞分裂の前に一過的に太さと速度が増えることを見出しました。このように、画像解析や数理モデル化といった新手法も柔軟に組み合わせることで、植物の体軸形成をさまざまな観点から説き明かしたいと考えています。

参考文献
Kimata et al. (2016) Proc Nat Acad Sci 113 (49), pp14157-14162, DOI:10.1073/pnas.1613979113
Kurihara et al. (2017) JoVE (127), 55975, DOI: 10.3791/55975
Kimata et al. (2019) Proc Nat Acad Sci 116 (6), pp2338-2343, DOI: 10.1073/pnas.1814160116
Kimata et al., (2020) Quant Plant Biol 1, e3, DOI: 10.1017/qpb.2020.4
Kang et al., (2023) Plant Cell Physiol 64 (11), pp1279–1288, DOI: 10.1093/pcp/pcad020