研究概要
植物多能性幹細胞を決定づけるしくみ
種子植物では分裂組織に多数の幹細胞集団が維持されている一方、コケ植物ではただ一つの幹細胞(頂端細胞)が規則的に分裂を繰り返し、葉や茎などを作り続けます(図1)。中でもヒメツリガネゴケでは、原糸体と呼ばれる単純な構造をした組織の中の1細胞が、適切な位置とタイミングで幹細胞へと切り替わり、葉と茎などを含む複雑な構造をもつ茎葉体を形成します。幹細胞の形成過程や、幹細胞から生み出された細胞の運命決定の過程が容易に観察できるため、植物幹細胞を決定づける仕組みを研究する上で理想的な研究材料です。また、コケ植物は原始的な形質を数多く残しており、植物幹細胞の起源や進化を探ることのできる格好のモデルとなっています。

私たちはヒメツリガネゴケを用いて、幹細胞性を促進する仕組みと抑制する仕組みが存在すること、そしてそれらが1細胞レベルで時空間的に制御されながら頂端細胞の形成や維持に機能していることを明らかにしました(Hata et al. 2024, 2025)(図2)。これらの仕組みで働く因子は種子植物の幹細胞の制御にも重要であることから、植物幹細胞に存在する共通の性質を示唆しています。現在、これらの因子が働くことで細胞に生じる具体的な変化や、因子の発現場所を規定する仕組みについて、さらなる解析を進めています。

Hata Y, Ohtsuka J, Hiwatashi Y, Naramoto S, Kyozuka J. Cytokinin and ALOG proteins regulate pluripotent stem cell identity in the moss Physcomitrium patens.Science Advances. 2024. Aug. 28. Doi: 10.1126/sciadv.adq6082
Hata Y, Hetherington N, Battenberg K, Hirota A, Minoda A, Hayashi M, Kyozuka J. snRNA-seq analysis of the moss Physcomitriumpatens identifies a conserved cytokinin-ESR module promoting pluripotent stem cell identity. Developmental Cell. 2025. March. 5. Doi: 10.1101/2024.07.31.606100