研究概要
環境に合わせて増殖を調節するしくみ
多くの植物は「栄養繁殖」を繁殖の手段として用いており、栄養繁殖では成育範囲を迅速に拡大することができます。また、クローン個体は親と同一の遺伝情報をもつため、栄養繁殖は優れた形質をもつ個体を増殖させることができるという点でも有利です。このため、球根植物の繁殖、ジャガイモの茎塊やタケなどの地下茎による増殖、多肉植物カランコエ葉の芽の形成など多くの植物種でさまざまなタイプの栄養繁殖が見られます。植物は環境に応じた効率のよい栄養繁殖システムを進化させました。したがって、植物の栄養繁殖を最適化する制御機構の解明は、植物の旺盛な繁殖力の基盤の理解につながる重要な課題です。

コケ植物の栄養繁殖は古くから研究されており、栄養、光条件、湿度など環境の変化に応じて栄養繁殖の程度が調節されていることが知られていました。しかし、その調節の仕組みは未解明でした。私たちは、身近に成育するコケ植物の代表「ゼニゴケ」を用いて、栄養繁殖を調節するしくみを研究しています。ゼニゴケの栄養繁殖では無性芽と呼ばれるクローンが多数形成され、それぞれの無性芽が新たな個体に成長し、さらに多数の無性芽を形成するというサイクルが繰り返されます。このためゼニゴケは栄養繁殖によって驚異的に増殖します。(図1)

私たちは、植物ホルモンKAI2-ligand (KL)の信号伝達経路で働く遺伝子の機能解析から、KLが栄養繁殖を制御すること(Komatsu et al. 2023)、KLからの信号が別の植物ホルモンサイトカイニンを介して栄養繁殖遺伝子を誘導すること(Komatsu et al. 2025)を明らかにしました。(図2)
今後は、光、温度、栄養などのうち、どのような環境要因がKL信号伝達を介して栄養繁殖を制御しているのかを明らかにするために解析を進めています。
Komatsu A, Kodama K, Mizuno Y, Fujibayashi M, Naramoto S, Kyozuka J. Control of vegetative reproduction in Marchantia polymorpha by the KAI2-ligand signaling pathway. Current Biology. 2023. Mar. 1. Doi: 10.1016/j.cub.2023.02.022
Komatsu A, Fujibayashi M, Kumagai K, Suzuki H, Hata Y, Takebayashi Y, Kojima M, Sakakibara H, Kyozuka J. KAI2-dependent signaling controls vegetative reproduction in Marchantia polymorpha through activation of LOG-mediated cytokinin synthesis (14). Nat Commun. 2025. Feb. 1. Doi:10.1038/s41467-024-55728-3