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スペアを持つ遺伝子が生物を環境変化に強くする~哺乳類のゲノム解析で解明、生物が持つ環境適応力の予測に期待~

スペアを持つ遺伝子が生物を環境変化に強くする~哺乳類のゲノム解析で解明、生物が持つ環境適応力の予測に期待~

2014.04.16 10:16

生態システム生命科学専攻 生物多様性進化分野

河田雅圭

 生物は様々な環境に生息していますが、種によって生息できる環境の幅が異なっています。たとえば、同じネズミ仲間の生物の間でも、ハツカネズミのように熱帯から温帯の世界の広い地域に草地、田畑、河原、土手、荒れ地、砂丘や人家など多様な環境に生息している種がいるのに対し、砂漠という特定の環境にしか生息していないトビネズミなどもいます。特定の環境にしか生息できない種は、地球温暖化などの環境変化に対して大きな影響を受けるのに対し、多様な環境に生息できる種は、新しい環境や変動する環境にも耐えることが容易だと思われます。

 しかし、多様な環境に適応できる能力はどういうメカニズムで生まれるのかは、ほとんど分かっていません。東北大学大学院生命科学研究科生物多様性進化分野の博士後期課程2年玉手智史、河田雅圭教授、牧野能士准教授は、このたび、あるタイプの遺伝子の数の違いがこの能力差を決めるカギになっている可能性を哺乳類の研究で示し、全ゲノム情報が既知の哺乳類30種のゲノム上にある「重複遺伝子」(注1)の数を比べ、種の生息環境の多様性が大きいほど重複遺伝子数が多いこと見出しました。本研究グループは先行研究において、ショウジョウバエ11種のゲノムデータを用いた解析でも同様の傾向を見出しており、重複遺伝子の数と生息環境多様性には一般性があることが強く支持されました。また、哺乳類はショウジョウバエと異なり5億年前に「全ゲノム重複」(注2)を経験しており、全ての遺伝子が重複遺伝子となった進化的背景があります。生息環境多様性は全ゲノム重複により重複した遺伝子「オオノログ」(注2)とは相関がなく、ゲノム上で小規模に重複(small-scale duplication, SSD)してできた重複遺伝子「SSD 遺伝子」と強い相関があることも示されました。現在、気候変動などによる環境の急変で絶滅する生物が増えることが懸念されており、生物の保全計画の策定は世界的に急務となっています。どのような生物種が環境の変化に弱いのかを事前に知ることは保全の優先順位を考える上で重要ですが、環境変化への強さを測る指標はこれまでなく、実際は不可能でした。

 今回の研究結果は重複遺伝子数がこの指標に利用できる可能性を示しており、実用化できれば全く新しいアプローチで科学的に生物保全を進められることが期待できます。

本研究成果は(題目: Contribution of non-ohnologous duplicated genes to high habitat variability in mammals)、英科学雑誌“Molecular Biology and Evolution”の電子版(日本時間4月16日)に掲載されました。

プレスリリースは次のとおりです。

kawata※m.tohoku.ac.jp (※を@に置き換えてください)