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生殖細胞の増殖を保証する転写制御機構

生殖細胞の増殖を保証する転写制御機構

2012.11.15 14:29

生命機能科学専攻・分化再生制御分野

松居 靖久

【概要】
胎仔に存在する未分化な生殖細胞は活発に増殖しますが、生命機能科学専攻・分化再生制御分野の松居教授のグループは、転写制御因子であるLarp7が機能しなくなると細胞周期の進行を阻害する遺伝子の発現が誘導され、その増殖が停止することを発見しました。

【研究内容】
胎仔に存在する始原生殖細胞は、精子や卵子の元となる未分化な生殖細胞で、胚発生の初期段階において、多能性幹細胞集団の一部から形成されます。最初は数十細胞程度に過ぎない始原生殖細胞は、その後、活発に増殖し数万細胞程度にまで達した後、胎齢中期に増殖を停止します。このように始原生殖細胞の増殖能は大きな変化を起こします。松居教授のグループは始原生殖細胞で特異的に発現する遺伝子のスクリーニングを行い、その結果得られたLarp7が始原生殖細胞の増殖に重要な役割を果たしていることを見いだしました。
 Larp7は7SK snRNP複合体の構成因子であり、この複合体は転写伸長を促進するP-TEFbタンパク質と結合し、その活性を抑制することにより細胞内での転写活性を抑制的に調節する働きがあります。このLarp7遺伝子のノックアウトマウス胚では始原生殖細胞数が顕著に減少することがわかりました(図)。さらに詳しい解析から、Larp7が細胞周期のG1期からS期への移行を促進する働きを持ち、それにより始原生殖細胞の活発な増殖が保証されていることが明らかになりました。そして、このLarp7による細胞周期の促進は、G1-S期の進行を阻害するCDK阻害因子遺伝子の発現を抑制することによっていることがわかりました。
 この結果は、この遺伝子の異常が生殖細胞の形成不全に原因のある不妊症や、始原生殖細胞の増殖異常により引き起こされる一部の小児腫瘍の原因となっている可能性を示唆しています。
 なおこの研究は、米国ソーク研究所、米国NIH、理化学研究所、慶應義塾大学との共同研究として行われました。

【発表論文】
発表雑誌: Genes & Development誌
発表論文名: Cell-cycle gene-specific control of transcription has a critical role in proliferation of primordial germ cells.
(日本語訳: 細胞周期遺伝子に特異的な転写制御は、始原生殖細胞の増殖に重要な役割を果たす)
著者名: Okamura, D., Maeda, I., Taniguchi, H., Tokitake, Y., Ikeda, M., Ozato, K., Mise, N., Abe, K., Noce, T., Izpisua Belmonte, J. C. and Matsui, Y.

【用語説明】
7SK snRNP: Larp7とP-TEFbを含む複数のタンパク質と低分子量のRNAからなる複合体で、細胞質に存在する。この複合体中では、転写を活性化する働きのあるP-TEFbの活性が抑制される。

【解説図】

Larp7遺伝子を欠損したマウス胚(Larp7-/-)の始原生殖細胞(緑色)は、正常胚(Larp7+/+)に比べて細胞数が顕著に少ない。