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個体の成長段階にあわせて葉の形を決める遺伝子を発見 ~作物の生産性向上に期待~

個体の成長段階にあわせて葉の形を決める遺伝子を発見 ~作物の生産性向上に期待~

2019.02.07 09:00

発表のポイント

  • 葉の形態形成に関与することが知られていたBLADE ONPETIOLE (BOP )遺伝子が、葉の基部側の成長を決定し、葉の伸長を調整するマスター遺伝子*1であることを発見しました。
  • 成長につれてBOP 遺伝子の作用力が変化することで植物は葉を伸ばし、効率よく成長できることがわかりました。
  • 植物形態の多様性の理解だけでなく、作物の生産性向上にもつながる発見です。
     
 

概要

 東北大学大学院生命科学研究科の経塚淳子教授らのグループは、これまで葉の形態形成に関与する遺伝子の一つとして知られていたBLADE ONPETIOLE (BOP )遺伝子が、葉の基部側の成長を決定するマスター遺伝子であり、個体の成長段階に合わせてBOP 遺伝子のはたらきを変化させ、イネの葉の形を段階的に調節することを発見しました。本研究は、葉の形態が成長に応じて変化するしくみを初めて明らかにしたもので、植物の柔軟な形づくりの解明につながる重要な発見です。葉の形は作物の収量に大きく影響するため、本研究は作物の生産性の向上にも貢献することが期待されます。本研究結果は、2月6日のNature Communications誌(電子版)に掲載されます。本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)および文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。
 
 

詳細な説明

 植物は幹や枝を伸ばし、その先に葉を茂らせて光合成を行い、糖分を作り出します。枝葉の形状は植物の種類ごとに独特ですが、葉の形状は光合成を効率よく行うために重要です。したがって、葉をどのように伸長させ展開するかは、植物の成長と繁殖の成否を決する問題です。
 イネ科植物の葉は、基部側の葉鞘(ようしょう)と先端側の葉身(ようしん)と呼ばれる二つの部分から構成されています (図1)。BLADE ONPETIOLE (BOP) (ボップ)遺伝子が葉の形態形成に関与することは知られていましたが、その詳細な機能は不明でした。経塚教授のグループは、イネのBOP 遺伝子のはたらきを破壊すると葉身だけの葉がつくられ、BOP 遺伝子を人工的に強くはたらかせると葉鞘だけの葉がつくられることを見いだしました (図1, 2, 3)。この発見により、BOP 遺伝子が葉鞘の形成を決定するマスター遺伝子であることが明らかになりました。
 
 
 
 
 
 葉鞘と葉身は、葉鞘が葉を支え、葉身が光合成を行うという別々の役割を担っています。このため、一枚の葉の葉鞘と葉身の比率は、その葉がつくられる時点の植物体の成長段階に合わせて変化させる必要があります (図4)。イネの生涯を通して、それぞれの葉の葉鞘と葉身の比率を決めるのはBOP 遺伝子で、BOP が強くはたらくと葉鞘の比率が高く、はたらきが弱まると葉身の割合が高い葉、すなわち細長い葉がつくられることがわかりました。
 
 
 
 
 植物は成長につれて、葉だけではなくさまざまな形質が変わります。これまでに植物の幼若期の特徴がmiR156という短いRNAによって決定されていることは知られていましたが、miR156がどのように植物に「幼さ」をもたらしているのかはわかっていませんでした。miR156がBOP のはたらきを調節することにより、葉の形を幼若期の状態にしていることも、本研究によって初めて明らかになりました (図5)。
 
 
 
 
 
 葉鞘と葉身の比率は作物の収量に大きく影響します。本研究は、生物の形づくりの仕組みという観点から重要な成果であるだけでなく、作物の生産性の向上という観点からも重要です。
 本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)および文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。
 
 
 
【用語説明】
*1 マスター遺伝子:ある細胞が特定の器官に分化するための指令スイッチとしてはたらく遺伝子。その遺伝子が欠損すると分化がおこらず、強制的にはたらかせると、本来は分化しない細胞からの特定の器官への分化がおこる。
 
 
 
【論文情報】
 
題目:BLADE-ON-PETIOLE genes temporally and developmentally regulate the sheath to blade ratio of rice leaves
著者:Taiyo Toriba, Hiroki Tokunaga, Toshihide Shiga, Nie Fanyu, Satoshi Naramoto, Eriko Honda, Keisuke Tanaka, Teruaki Taji, Jun-Ichi Itoh, Junko Kyozuka
雑誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-019-08479-5
 
 
 
 
 
 
【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科 
担当:経塚 淳子(きょうづか じゅんこ)
電話番号:022-217-6226
E-mail:junko.kyozuka.e4(at)tohoku.ac.jp
              
<報道に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科
担当:高橋 さやか (たかはし さやか)
電話番号: 022-217-6193
E-mail: lifsci-pr(at)grp.tohoku.ac.jp