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クロマチン修飾が生殖細胞系列の姉妹体細胞遺伝子の発現を抑制することを脊索動物で発見

クロマチン修飾が生殖細胞系列の姉妹体細胞遺伝子の発現を抑制することを脊索動物で発見

2020.01.29 14:30

概要

 
 生殖細胞が形成される過程では、体細胞に分化しないように未分化状態が維持される必要があります。線虫、ショウジョウバエ、ホヤを含む多くの動物では、生殖細胞は生殖質と呼ばれる母性局在因子を受け継ぐことによって形成されます。胚発生初期において、線虫ではPIE-1、ショウジョウバエではPgc、ホヤではPemと呼ばれる母性局在因子が生殖細胞系列(将来生殖細胞になる系譜の細胞)で転写抑制因子として機能し、体細胞への分化を抑制していることが知られています。
 しかしながら、胚発生後期になると生殖細胞系列で胚性遺伝子の発現が始まりますが、その後も体細胞遺伝子の発現がどのようにして選択的に抑制されるのか、その仕組みはよく分かっていませんでした。
 本研究では脊索動物ホヤの1種であるマボヤ(Halocynthia roretzi)を用いてこの課題に取り組みました。その結果、ヒストンのメチル化を介して転写を抑制するH3K27me3が64細胞期頃から生殖細胞系列に強く発現していることを見出しました(写真1)。この時期はPemタンパク質の発現及び転写抑制機能が減少する時期と一致していました。興味深いことに、H3K27me3とPemの機能を同時に阻害すると、筋肉の分化に特異的な体細胞遺伝子が生殖細胞系列で異所的に発現しました(写真2)。一方で脊索、神経索、心臓の分化に特異的な体細胞遺伝子の異所的な発現は観察されませんでした。重要なことに、これらの異所的に発現した遺伝子は、正常発生では生殖細胞系列から最後に分かれる体細胞系列(B7.5系列)で発現する遺伝子です。
 これらの結果から、H3K27me3は生殖細胞系列の姉妹体細胞系列の遺伝子の発現を選択的に抑制する役割を担っている可能性が示唆されました。さらに、ホヤの生殖細胞系列は連続的な非対称分裂によって体細胞系列から分離されて行くことから、本研究で明らかにされた機構は、非対称分裂によって生殖細胞系列を分離する機構(すなわち生殖細胞系列とB7.5系列を分離する機構)と関連していることも示唆されました。発生初期の母性局在因子による転写抑制がその後クロマチン修飾を介した機構に引き継がれる仕組みは、線虫やショウジョウバエの生殖細胞系列でも共通しており、脊索動物を含む多くの動物に広く保存された機構であることを示唆しています。
 本研究の成果は2020年1月2日にDevelopmental Biology誌に掲載されました。
 
写真1:64細胞期の核の染色(左側、白矢印は生殖細胞系列の核を示す)と生殖細胞系列でのH3K27me3の発現(右側、赤矢印)。
 
 
 
写真2:H3K27me3とPemを同時に阻害した胚の、生殖細胞系列における筋肉の分化に特異的な遺伝子の異所的な発現(赤矢印)
 
【論文題目】
題目:H3K27me3 suppresses sister-lineage somatic gene expression in late embryonic germline cells of the ascidian, Halocynthia roretzi 
著者:Tao Zheng, Ayaki Nakamoto, Gaku Kumano
雑誌:Developmental Biology
DOI: https://doi.org/10.1016/j.ydbio.2019.12.017
 
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科附属海洋生物学教育研究センター
担当:熊野 岳(くまの がく)
電話番号:017-752-3390
E-mail:gaku.kumano.d6(at)tohoku.ac.jp