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クラゲ類の受精卵における初の遺伝子ノックダウン法 〜非モデル動物の遺伝子機能を解析する新規研究プラットフォーム〜

クラゲ類の受精卵における初の遺伝子ノックダウン法 〜非モデル動物の遺伝子機能を解析する新規研究プラットフォーム〜

2022.10.07 11:00

発表のポイント

  • クラゲ類*1の受精卵においてRNAi法*2による遺伝子発現の抑制(ノックダウン*3)に成功しました。
  • 標的遺伝子のsiRNA*4をエレクトロポレーション*5する手法は、クラゲ類を含む他の海産無脊椎動物にも適用可能です。
  • マイクロインジェクション*6が困難なエダアシクラゲの受精卵において、初めて遺伝子操作を実現しました。

概要

 海中を漂うプランクトンであるクラゲ類は、イソギンチャクやサンゴと同じ刺胞動物門に属し、動物の発生や行動の進化を理解する上で重要な研究対象です。これまでの刺胞動物を用いた細胞や分子レベルの研究では、一部のポリプ*7型の動物を中心に展開されてきたこともあり、メデューサ*8のステージをもつクラゲ類に特徴的な生命現象の分子レベルの理解はあまり進んでいませんでした。その理由として、マイクロインジェクションによる胚操作が困難であったことが挙げられます。
 東北大学学際科学フロンティア研究所の中嶋悠一朗博士(研究当時・助教、現・東京大学大学院薬学系研究科・講師)は、小澤(増田)ときは博士(研究当時・学術研究員、現・生命科学研究科)、生命科学研究科大学院生の冨士田壮佑氏、倉永英里奈教授らとともに、クラゲ類の初期胚の遺伝子を効率よく、かつシステマティックに発現抑制(ノックダウン)する手法を確立しました。
 研究グループは、複数種のヒドロ虫綱*9クラゲの受精卵を使って、RNAi法による遺伝子発現の抑制(ノックダウン)に成功しました。本研究で確立した手法は、クラゲ類だけでなく他の海産無脊椎動物にも適用可能な手法であり、初期胚の遺伝子機能を解析する上で大変有用と考えられます。
 本研究成果は、国際科学誌『Scientific Reports』 に2022年9月30日に掲載されました。
 
 
図. ヒドロ虫綱クラゲの生活環 受精卵が要請を経て、ポリプを形成する。
ポリプは無性生殖で増え、メデューサは遊泳して優性生殖を行う。
 
【用語説明】
*1  クラゲ類: 水母亜門のこと。刺胞動物門は、大きく花虫綱/花虫亜門と水母亜門の2つに分けることができる。

*2  RNAi法: RNA干渉法とも言われ、標的遺伝子と相補的な配列を持つ2本鎖 RNA によってその遺伝子の発現を抑制する方法。

*3  ノックダウン:特定の遺伝子のmRNA量を減少させる操作の総称。現在は、RNAi法が主な手法となっている。

*4  siRNA: 21塩基程度の2本鎖 RNAで、RNA干渉経路において長鎖の2本鎖 RNAがDicerによって切断されてできる。合成されたsiRNAが哺乳類培養細胞をはじめ、多くの実験系で使用されている。

*5  エレクトロポレーション: 電気穿孔法(でんきせんこうほう)。パルス化された電流を使用して細胞膜に細孔を導入して、核酸やタンパク質などの分子を細胞内に取り込ませる方法のこと。

*6  マイクロインジェクション:微小なガラス管などを用いてDNAやタンパク質などを細胞内に注入する方法のこと。

*7  ポリプ:ヒドラ、サンゴ、イソギンチャクに代表される、刺胞動物に属する動物の多くがとる基本的な形態で生活環の1つ。

*8  メデューサ:傘と口、触手をもつ形態で生活環の1つ。いわゆる日本語でイメージするクラゲと同義で使われることも多い。

*9  ヒドロ虫綱: 刺胞動物門に属する綱(生物の分類における階級)の1つ。
 

 
【論文情報】
Tokiha Masuda-Ozawa, Sosuke Fujita, Ryotaro Nakamura, Hiroshi Watanabe, Erina Kuranaga, and Yu-ichiro Nakajima* siRNA-mediated gene knockdown via electroporation in hydrozoan jellyfish embryos (2022) Scientific Reports
 
 
 
 
【関連リンク】
 
 
【お問い合わせ先】
(報道に関すること)
東北大学 学際科学フロンティア研究所
特任准教授 藤原 英明 (ふじわら ひであき)
電話: 022-795-5259
E-mail: hideaki@fris.tohoku.ac.jp
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