GO TOP

Information

Research

Information

ニホンミツバチは3つの異なる地域集団に区別できる 地域間のコロニー移動などが局所適応を妨げる可能性も

ニホンミツバチは3つの異なる地域集団に区別できる 地域間のコロニー移動などが局所適応を妨げる可能性も

2023.10.10 11:00

発表のポイント

  • 本州以南に生息する、日本唯一の野生ミツバチであるニホンミツバチは、国内で遺伝的に均一な集団が分布すると考えられていましたが、全ゲノム配列の解析により、大きく3つの異なる地域集団に区別できることを明らかにしました。
  • 自然選択を受けた遺伝子の解析から、ニホンミツバチの異なる3地域への局所適応は温暖化などの気候変動に対して脆弱で、気温上昇に応じて分布を北上させることが困難である可能性が示唆されました。
  • 異なる地域間で、人為的にコロニーを移動させることは、ニホンミツバチの局所適応を妨げる可能性があり、注意が必要なことを示唆しました。
     

概要

 ニホンミツバチはトウヨウミツバチの1亜種で、本州以南に生息する日本で唯一の野生種ミツバチです。これまでの研究では、ニホンミツバチが国内で遺伝的に均一であるとされていました。
 東北大学大学院生命科学研究科博士課程の若宮健(現在は東京都立大学理学部生命科学科特別研究員)と東北大学大学院生命科学研究科の河田雅圭教授(現在は東北大学総長特命教授)らの研究グループは、日本各地の105個体のニホンミツバチの全ゲノム配列を解析し、遺伝的に異なる3つの地域集団(北部、中央部、南部)を確認しました。さらに個体の遺伝的組成から、人為的に移入された個体かの判別が可能であることがわかりました。また、それぞれの遺伝的に分化した3地域への適応に関わる遺伝子の検出を試みた結果、本種が地域特異的な要因に適応していることが示唆されました。これらのことから、地域間のコロニーの人為的移動は、コロニーの適応状態を阻害する可能性が考えられます。
 本研究の成果は、9月29日(現地時間)にEcology and Evolution誌に掲載されました。
 

詳細な説明

研究の背景
 ニホンミツバチは本州以南の地域に生息する日本で唯一の野生種ミツバチです。本亜種は、古くからの伝統養蜂種としてだけでなく、植物の花粉媒介に貢献する送粉者として重要な生物です。ニホンミツバチは、本州、九州、四国および一部の離島に分布し、多様な生物環境で構成される日本の自然環境へ幅広い適応をみせています。南北に細長い形状の日本列島は、気温差、標高差、降水量差などのミツバチの生存に影響を与える要素を多く含むことから、日本列島内の異なる環境条件にそれぞれの地域集団が局所適応している可能性が予想されます。
 これまでのミトコンドリアDNAなど、一部の遺伝情報を用いた研究で、ニホンミツバチは日本列島内に遺伝的に均一な集団が分布すると考えられていました。そこで、日本各地のニホンミツバチのゲノム配列を解析することで、日本列島内の集団の遺伝構造を可視化し、それぞれの地域内のどのような環境に適応しているのかを調べることが重要になります。
 
今回の取り組み
 本研究では、日本列島全域から採集された計105個体のニホンミツバチの全ゲノム配列の情報を新たに解析しました。全ゲノムスケールの高解像度で集団の遺伝構造を評価した結果、日本列島内の集団は、大きく北部(東北-関東-中部地方)、中央部(中国地方)、南部(九州地方)の3つの地域に区別できることが明らかとなりました(図1)。また、各個体の遺伝的組成から、人為的に移動したと推定される個体とそうでない個体を判別することが可能でした(図2)。
 続いて、3地域のそれぞれで自然選択を受けて局所適応に関係している候補遺伝子を検出しました。さらに、温度、積雪量、降水量など、南から北へ緯度にそって変化する環境に伴って頻度を変化させている環境適応に関する候補遺伝子の検出を行いました。その結果、各地域で局所適応している遺伝子は、緯度にそって変化する環境へ適応している遺伝子とは一致しませんでした。このことは、ニホンミツバチは、各地域の特異的な環境に適応しているため、温暖化による気温などの上昇に応じて北に移動するのを困難にしていることが示唆され、個体群の減少リスクを高める可能性があると考えられました。また、異なる地域間で個体を移動させることは、移動した個体が移動先の地域に適応できない可能性があることが示唆されます。
 本研究で得られた進化学的知見は、ニホンミツバチの遺伝子型と地域ごとの形質(生物の特徴)の詳細な関係性を明らかにする基礎研究への接続が期待できます。
 
今後の展開
 遺伝解析からミツバチ個体が、3つの地域集団のどこに由来するのかを判別する簡易的なシステムを開発することで、適切な移動制限や地域適性の診断などが可能になると期待されます。また、本研究で検出された局所適応に関わる候補遺伝子が具体的にどのような環境で、どのように適応に関与しているのかを調べることで、ニホンミツバチを保全していくための応用面での貢献が可能になると考えられます。
 
図1. ニホンミツバチにおける集団の遺伝的分化の概要。全ゲノム配列の解析から北部、中央部、南部の集団を遺伝的に区別できた。
 
 
図2. 遺伝的解析の結果から判明する移入個体。色は異なる遺伝的組成を示す。赤で囲った長方形は移入個体を示す。たとえば、左端の赤の長方形は福島から採集した個体であるが、遺伝的組成は南部であることを示している。
 
 
【謝辞】
本研究は、山田養蜂場みつばち研究助成基金(2017)、文部科学省科学研究費(JP18J21501)の支援を受けて行われました。
 
 
【論文情報】
Takeshi Wakamiya*, Takahiro Kamioka, Yuu Ishii, Jun-ichi Takahashi, Taro Maeda and Masakado Kawata* (2023) Genetic differentiation and local adaptation of the Japanese honeybee, Apis cerana japonica. Ecology and Evolution
DOI:10.1002/ece3.10573
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ece3.10573
 
 
【関連リンク】
 
 
【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学教養教育院
総長特命教授 河田 雅圭
TEL: 022-795-4974
Email: kawata(at)tohoku.ac.jp
 
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋さやか
TEL: 022-217-6193
Emai: lifsci-pr(at)grp.tohoku.ac.jp
 
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています