【発表のポイント】
- たくさんの倒木がある川の場所では、川の本流に加えて分流やよどみ、池など川の水の流れが複雑な傾向があることが分かりました。
- よどみや池を主に利用している水生生物も多く、更に成魚が河川本流に見られるイワナやイトウも稚魚はその大半がよどみや池などの環境を主に利用していることが明らかになりました。
- 渓畔林 (注1) は、魚の隠れ場所・日陰の提供や餌の供給など直接的効果のみならず、倒木が川の地形を複雑化して複雑な水の流れを形成することで多様な生物の生息場を提供する間接的効果も持つことが分かりました。
【概要】
本来の日本の自然河川はどのような地形・水の流れをしていて、その場を生き物がどのように利用していたのでしょうか。東北大学の宇野裕美准教授らの研究グループは、北海道大学の根岸教授、岸田教授、東京大学と共同で、原生に近い山地氾濫原が残る北海道北部の北海道大学北方生物圏フィールド科学センター雨龍研究林を流れるブトカマベツ川をモデルとして、渓畔林と川の地形や水の流れと水生生物の関係を結び付ける研究を行いました。その結果、約10 kmの川沿いに、631本の倒木が存在し、倒木の多いところによどみや池など多様な水域が分布していました。よどみや池など氾濫原特有の環境を主に利用している水生生物も多く、倒木が形作る複雑な川の水の流れが多様な水生生物の共存に重要な役割を果たしていることが分かりました。さらに、成魚が河川本流に見られるイワナやイトウも、実は稚魚はその大半がよどみや池などの環境を主に利用しているといった実態も明らかになり、川に生息する多くの生物にとって複雑な水の流れが大切であることが分かりました。渓畔林は、魚の隠れ場所・日陰の提供や餌の供給など直接的効果のみならず、川の地形を複雑化して複雑な水の流れを形成することで多様な生物の生息場を提供する間接的効果も持つことが判明しました。この結果は自然再生事業などの目標設定において、重要な基盤情報となります。
本研究成果は8月12付でEcosphere誌に掲載されました。
本研究成果は8月12付でEcosphere誌に掲載されました。
【詳細な説明】
研究の背景
本来の日本の自然河川はどのような地形・水の流れをしていて、その場を生き物がどのように利用していたのでしょうか。森林伐採、河川の直線化、護岸、農地化、多くの河川は人の手により大きく改変されており、私たちは自然本来の河川の姿がどの様なものだったのか忘れてしまっています。人口縮小時代、ネイチャーポジティブ (注2) の機運もある中で、そもそも何を目標に自然再生に取り組めばよいのかでしょうか。今まさに、自然本来の姿とは何かが問われています。
川の周辺に生育する渓畔林が河川生態系に果たす役割については、これまで魚の隠れ場所の提供や陰を作ることによる河川水温の低下、渓畔林からの落下昆虫が川の魚の餌資源になるなど、様々な効果が知られてきました。一方で、近年の地形学の研究で渓畔林の存在が川の深みや茂みを作るのみならず、川を複流路化させるなど、地形を複雑化させるといったことが指摘されています。渓畔林の存在による河川の複雑な水の流れは、間接的に河川生態系に大きな役割を果たしていると考え、渓畔林から河川の地形・水の流れ・水生生物までを結びつけて自然本来の山地河川の姿を描き出す研究に着手しました。
本来の日本の自然河川はどのような地形・水の流れをしていて、その場を生き物がどのように利用していたのでしょうか。森林伐採、河川の直線化、護岸、農地化、多くの河川は人の手により大きく改変されており、私たちは自然本来の河川の姿がどの様なものだったのか忘れてしまっています。人口縮小時代、ネイチャーポジティブ (注2) の機運もある中で、そもそも何を目標に自然再生に取り組めばよいのかでしょうか。今まさに、自然本来の姿とは何かが問われています。
川の周辺に生育する渓畔林が河川生態系に果たす役割については、これまで魚の隠れ場所の提供や陰を作ることによる河川水温の低下、渓畔林からの落下昆虫が川の魚の餌資源になるなど、様々な効果が知られてきました。一方で、近年の地形学の研究で渓畔林の存在が川の深みや茂みを作るのみならず、川を複流路化させるなど、地形を複雑化させるといったことが指摘されています。渓畔林の存在による河川の複雑な水の流れは、間接的に河川生態系に大きな役割を果たしていると考え、渓畔林から河川の地形・水の流れ・水生生物までを結びつけて自然本来の山地河川の姿を描き出す研究に着手しました。
今回の取り組み
原生に近い山地氾濫原が残る北海道北部のブトカマベツ川をモデルとして、約10kmの川沿いの倒木・ログジャム (注3)・分流(常に流水)やよどみ(半止水:増水時のみ水が流れ、低水時は池)・池(常に止水)などの分布を調査しました。増水時と低水時の二回ドローンによる空撮を行い、それぞれの時の水の広がりと流れを調べることで、水域生息場のカテゴリー分け(流水・半止水・止水)を行い、更に低水時に10kmを踏査して倒木・ログジャムの分布を調べました。その結果、約10kmの川沿いに、631本の倒木と77のログジャム、19の分流と29のよどみ、38の池が存在しており、倒木の多いところによどみや池など氾濫原特有の水域が多く分布する傾向がありました。
また、水生生物の野外調査により推定したそれぞれの生物の密度情報を上記の生息場の情報と組み合わせることにより、流域全体での各生物による生息場利用実態を算出しました。よどみや池など氾濫原特有の水域環境は河川本流に比べて面積は小さいものの、その特有の水辺環境を主に利用している水生生物も多いことが分かりました。さらに、成魚が河川本流に見られるイワナやイトウも、実は稚魚はその大半がよどみや池などの環境を主に利用しているといった実態も明らかになり、川に生息する多くの生物にとって複雑な水の流れが大切であることが分かりました。
これらの結果から、渓畔林は、魚の隠れ場所・日陰の提供や餌の供給など直接的効果のみならず、川の地形を複雑化して複雑な水の流れを形成することで多様な生物の生息場を提供する間接的効果も持つことが明らかとなりました。
原生に近い山地氾濫原が残る北海道北部のブトカマベツ川をモデルとして、約10kmの川沿いの倒木・ログジャム (注3)・分流(常に流水)やよどみ(半止水:増水時のみ水が流れ、低水時は池)・池(常に止水)などの分布を調査しました。増水時と低水時の二回ドローンによる空撮を行い、それぞれの時の水の広がりと流れを調べることで、水域生息場のカテゴリー分け(流水・半止水・止水)を行い、更に低水時に10kmを踏査して倒木・ログジャムの分布を調べました。その結果、約10kmの川沿いに、631本の倒木と77のログジャム、19の分流と29のよどみ、38の池が存在しており、倒木の多いところによどみや池など氾濫原特有の水域が多く分布する傾向がありました。
また、水生生物の野外調査により推定したそれぞれの生物の密度情報を上記の生息場の情報と組み合わせることにより、流域全体での各生物による生息場利用実態を算出しました。よどみや池など氾濫原特有の水域環境は河川本流に比べて面積は小さいものの、その特有の水辺環境を主に利用している水生生物も多いことが分かりました。さらに、成魚が河川本流に見られるイワナやイトウも、実は稚魚はその大半がよどみや池などの環境を主に利用しているといった実態も明らかになり、川に生息する多くの生物にとって複雑な水の流れが大切であることが分かりました。
これらの結果から、渓畔林は、魚の隠れ場所・日陰の提供や餌の供給など直接的効果のみならず、川の地形を複雑化して複雑な水の流れを形成することで多様な生物の生息場を提供する間接的効果も持つことが明らかとなりました。
今後の展開
今後は、本研究で得られた倒木と地形・水の流れ・生物の関係のプロセスを因果関係を含めてさらに詳細に調査を行い、山地氾濫原の実態について広域でのパターン研究も並行して実施します。
倒木と地形・水の流れ・生物の関係のプロセスについては、今後、河川生態学・森林生態学・地形学・水文学などを専門とする国際研究チームを立ち上げ、さらに詳細な研究をモデル河川としてブトカマベツ川にて行っていく予定です。また、これらの知見を自然再生や人と自然の共存に活かす方策についても模索していきます。
自然の山地河川というと、切り立った谷間を川が流れる渓流を想起しがちですが、本来は山間の谷底平野の中を河川が複流路になって流れ下る、本研究で記述したような山地氾濫原が多く存在していたはずです。現状として、平地で利用価値の高い山地氾濫原の河川が直線化され農地化された結果、山地氾濫原が“失われ忘れられた生態系”なのではないかと考えています。精緻な地形データの解析及び過去から現在への土地利用の変化を調べることで、過去から現在への山地河川の変遷と実態を調べるとともに、山地氾濫原の自然再生などの可能性についても模索していきます。
今後は、本研究で得られた倒木と地形・水の流れ・生物の関係のプロセスを因果関係を含めてさらに詳細に調査を行い、山地氾濫原の実態について広域でのパターン研究も並行して実施します。
倒木と地形・水の流れ・生物の関係のプロセスについては、今後、河川生態学・森林生態学・地形学・水文学などを専門とする国際研究チームを立ち上げ、さらに詳細な研究をモデル河川としてブトカマベツ川にて行っていく予定です。また、これらの知見を自然再生や人と自然の共存に活かす方策についても模索していきます。
自然の山地河川というと、切り立った谷間を川が流れる渓流を想起しがちですが、本来は山間の谷底平野の中を河川が複流路になって流れ下る、本研究で記述したような山地氾濫原が多く存在していたはずです。現状として、平地で利用価値の高い山地氾濫原の河川が直線化され農地化された結果、山地氾濫原が“失われ忘れられた生態系”なのではないかと考えています。精緻な地形データの解析及び過去から現在への土地利用の変化を調べることで、過去から現在への山地河川の変遷と実態を調べるとともに、山地氾濫原の自然再生などの可能性についても模索していきます。

図1. 倒木と川の形・水の流れの関係。渓畔林からの倒木が川の地形を複雑化して複数の流路を形成、流路変更に伴い形成される旧流路(河跡湖)がたまりや池となって多様な水辺を形成する。

図2. 山地氾濫原の多様な水辺とそこに共存する多様な水生生物。低水時は池で増水時には水が流れる半止水環境のたまりや池など氾濫原に特有の水辺環境は、河川本流に比べて面積は小さくても、そのような環境を好む生物にとっては稀少な生息場となっている。河川本流に成魚の生育するイワナやイトウなどの魚も、実はその稚魚は氾濫原水域に主に生育しており、氾濫原特有の水辺の存在が河川本流に生息する生物にとっても重要であることが分かった。
【謝辞】
本研究はJSPS科研費(JP21H04784)の支援を受けて行われました。
本研究はJSPS科研費(JP21H04784)の支援を受けて行われました。
【用語説明】
注1. 渓畔林:川沿いに成立する森林
注1. 渓畔林:川沿いに成立する森林
注2. ネイチャーポジティブ:2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させて回復軌道に乗せるという世界的な目標
注3. ログジャム:倒木が川の流れ等により寄せ集められてできた構造物
注3. ログジャム:倒木が川の流れ等により寄せ集められてできた構造物
【論文情報】
タイトル:Large wood supports hydrologically variable floodplain environments and aquatic biodiversity
著者: Hiromi Uno*, Junjiro Negishi, Kentaro Morita, Osamu Kishida, Ellen Wohl
*責任著者:東北大学大学院生命科学研究科 准教授 宇野裕美
掲載誌:Ecosphere
DOI:10.1002/ecs2.70700
URL:https://doi.org/10.1002/ecs2.70700
【問い合わせ】
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
准教授 宇野裕美
TEL: 022-795-6681
Email: hiromi.uno.c5(at)tohoku.ac.jp
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
准教授 宇野裕美
TEL: 022-795-6681
Email: hiromi.uno.c5(at)tohoku.ac.jp
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋さやか
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr(at)grp.tohoku.ac.jp
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋さやか
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