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見た目の多様さが繁栄のカギ:トンボの色彩の個体差はハラスメントのリスクの分散を通じて集団を繁栄させる

見た目の多様さが繁栄のカギ:トンボの色彩の個体差はハラスメントのリスクの分散を通じて集団を繁栄させる

2014.07.22 09:15

東北大学 学際科学フロンティア研究所・東北大学大学院 生命科学研究科

高橋佑磨(学際科学フロンティア研究所・生命科学研究科)

河田雅圭(生命科学研究科)

 野外の生き物には、種内あるいは集団内に多様性や個性、個体差が数多く存在しています。このような多様さの機能や意義については、古くから議論がなされてきましたが、明確な答えは得られていませんでした。日本で最もふつうに見られるイトトンボの一種であるアオモンイトトンボ(学名:Ischnura senegalensis)には、雌の色彩に一見して明らかな多様性(個体差)が存在し、雌らしい色をした「メス型の雌」と雄に似た色彩をもつ「オス型の雌」が集団内に共存しています。このような色彩の多様さは、雄からの執拗な性的干渉(セクシャルハラスメント)を回避するための雌の戦略として進化したと考えられてきました。

 東北大学 学際科学フロンティア研究所・同大学院生命科学研究科の高橋佑磨(たかはしゆうま)助教と生命科学研究科の河田雅圭(かわたまさかど)教授は、東邦大学とLund Universityと共同で、アオモンイトトンボの雌における種内の色彩の多様性が集団の繁栄の程度(増殖率や密度、安定性、絶滅リスクなど)に与える影響について、数理モデルと野外実験の両側面から検証しました。その結果、雌の中に複数の色彩型がバランスよく混在する(多様度が高い)ほど、雄が効率的に雌を探索できず、雌一個体あたりのセクシャルハラスメントのリスクが低下することを見出しました。また、多様度の高い集団では、ハラスメントのリスクの軽減が集団の増殖率や安定性を高め、最終的には絶滅リスクを減少させることが示唆されました。人為的に雌の多様度を操作する実験を行なったところ、多様度を高めた集団で増殖力が高まることが裏付けられました。

 今回の成果は、「集団内の多様性」が集団の繁栄に強く影響していることを証明するとともに、生物の形態や色彩の進化がその生物の繁栄や絶滅リスクに影響することを示しています。「多様さが生物を繁栄させる」という視点は、今後、現在の生物多様性の成立過程の理解、さらには外来種対策や生物の保全対策に生かされると期待されています。

本研究の成果は、英国科学誌Nature Communications電子版(7月18日号)に
掲載されました。

プレスリリースは次のとおりです。

ホームページはこちらです。
高橋佑磨個人河田研究室

研究成果の解説は、こちらです。

takahashi.yum※gmail.com (※を@に置き換えてください)