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性染色体の進化による種の形成をトゲウオ科魚類のイトヨで証明

性染色体の進化による種の形成をトゲウオ科魚類のイトヨで証明

2009.09.03 10:47

性染色体進化による種形成の研究成果がNature誌に掲載

性染色体の進化による種の形成をトゲウオ科魚類のイトヨで証明

所属:生命科学研究科 生物多様性進化分野
名前:北野 潤
URL:http://meme.biology.tohoku.ac.jp/EVOL/EVOL/index.html

生物多様性の喪失は現在急速に進んでおり、多様性の進化維持機構を解明することは世界的な課題である。しかしながら、ダーウィン生誕200年を迎えた今年でも、種が形成される遺伝的機構については多くが明らかになっていない。このたび、生物多様性進化分野の北野潤助教らは、性染色体の変化が、日本海で新たな魚の種を形成させたということを発表した。性染色体が種の起源に重要ではないかとする仮説や傍証はこれまでにも提唱されていたものの、北野助教らの研究は、この仮説を野外動物で実証したものとして高く評価され、9月27日付のネイチャー電子版に掲載された。

日本海は、氷河期に地理的隔離を受けたことが知られている。北野助教らは、トゲウオ科に属するイトヨという魚の一部が約200万年前に日本海に閉じ込められたことによって、太平洋のイトヨとは異なる独自の進化を遂げたという事実に注目し、7年前から日米の共同研究を立ち上げ、日本海のイトヨがどのようにして祖先型のイトヨ(太平洋のイトヨ)から進化したかを追求してきた。

このたび、日本海のイトヨが独自の性染色体を持っているということ、さらに、性染色体の違いが原因で太平洋のイトヨとうまく交配できなかったり、雑種が不妊になったりすることを発見した。日本海型イトヨでは、Y染色体と常染色体9番が融合しており、太平洋型とは異なる性染色体(ネオ性染色体)を持っている。ネオ性染色体には求愛行動を攻撃的にする遺伝子が存在し、ネオ性染色体を持ったオスのイトヨは、求愛行動時に背中の棘でメスを強くつつくことが明らかとなった。日本海のメスは、背棘による攻撃行動にもひるまずオスについていくのに対して、太平洋のメスは背棘で攻撃されると交配を止めてしまう。従って、日本海オスと太平洋メスは自由に交配できないということが分った。さらに、日本海イトヨの性染色体には、体を小さくさせる遺伝子も存在し、太平洋イトヨのメスが小さなオスを好まないということも、自由に交配できない要因のひとつである。また、日本海イトヨの性染色体には、太平洋のオスを不妊にさせる効果がある、つまり雑種が不妊になることも明らかになった。これらは、性染色体の違いが原因となって、日本海に新種のイトヨが誕生したことを意味する。

これらは、北野助教が中心となって、米国シアトルのフレッドハッチンソン癌研究所パイケル博士らと行った共同研究の成果である。魚類や爬虫類等では、性染色体の構造が全く異なっていることが多く、その理由は長らく不明であったが、今回の成果から、これらの分類群でも性染色体の違いが新種を生み出す主要なメカニズムである可能性が示唆される。また、日本海のメスは、なぜ攻撃的なオスについて行くように変化したのか、その神経遺伝学的機構を解明すれば、攻撃的な男性に惹かれる女性の心理にも迫れると考えられる。

(1)日本海イトヨは、氷河期に日本海が閉鎖されたことによって太平洋イトヨとは異なる独自の進化を遂げた。日本海型イトヨでは、Y染色体と常染色体9番が融合しており、ネオ性染色体と呼ばれる染色体を持っている。

(2)日本海のメスは、背棘による攻撃行動にもひるまずオスについていくのに対して、太平洋のメスは背棘で攻撃されると交配を止めてしまう。また、太平洋のメスは、体の大きなオスが好きだが、日本海オスは体が小さい。求愛行動の攻撃性と体のサイズを決める主働遺伝子は、いずれも性染色体上に存在する。

本研究成果はネイチャー電子版(Advance Online Publication)に掲載されました。
http://www.nature.com/nature

Kitano, J., Ross, J.A., Mori, S. Kume, M., Jones, F.C., Chan, Y.F., Absher, D.M., Grimwood, J., Schmutz, J., Myers, R.M., Kingsley, D.M., and Peichel, C.L. A role for a neo-sex chromosome in stickleback speciation. Nature doi: 10.1038/nature08441

以下のように報道されたほか、各地の新聞に記事が掲載されました。
ネイチャーニュース
http://www.nature.com/news/2009/090927/full/news.2009.954.html

河北新報(9月28日朝刊)
http://www.kahoku.co.jp/news/2009/09/20090928t15026.htm