遺伝情報の安定な維持や細胞の癌化に関与
細胞分裂時の染色体の均等な分配を調節する新規因子を解明
所属:情報伝達分子解析分野
名前:水野 健作
細胞が遺伝情報を娘細胞に均等に伝えていくためには、複製されたゲノムDNAの運び手である姉妹染色体が細胞分裂時に均等に分配されることが必要です。染色体の不均等な分配は、細胞の癌化とも深く関わっていることが知られています。紡錘体は複製された姉妹染色体を均等に分配するための細胞装置であり、細胞分裂時には、姉妹染色体が紡錘体の両極から伸びた微小管によって捕捉され、紡錘体の赤道面上に整列し、その後両極に引っ張られていくことによって、染色体の娘細胞への均等な分配が保障されています。
今回、生命科学研究科の千葉秀平(博士後期課程大学院生)と水野健作教授らのグループは、ヒト細胞の体細胞分裂において染色体の紡錘体赤道面上への整列と均等な分配を調節するタンパク質としてNDR1、Furry、MST2を新たに見出しました。これらのタンパク質の発現を抑制した細胞では染色体が紡錘体の赤道面上に整列できないことや、FurryとMST2がNDR1の活性化因子として細胞分裂期におけるNDR1の活性化と染色体の赤道面上への整列に重要な役割を担っていることを明らかにしました。これらの成果は、細胞が世代を超えて染色体を安定に維持するための基本メカニズムを解明する上で重要であるだけでなく、癌などの疾患にみられる染色体の分配異常の仕組みを解明するためにも重要な発見であると考えられます。
本研究成果は、3月26日付けで米国の科学雑誌『Current Biology』電子版に掲載されました。
<論文題目>
Chiba, S., Ikeda, M., Katsunuma, K., Ohashi, K., and Mizuno, K. (2009) MST2- and Furry-mediated activation of NDR1 kinase is critical for precise alignment of mitotic chromosomes. Current Biology, doi: 10.1016/j.cub.2009.02.054
http://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(09)00807-0
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図1 NDR1とFurryの発現抑制による染色体整列の阻害
ヒト細胞の正常な細胞分裂においては、複製された姉妹染色体は紡錘体の赤道面上に整列し、その後均等に分配されるが、NDR1あるいはFurryの発現を抑制した細胞では姉妹染色体が整列できず、染色体の均等な分配が阻害される。写真の青が姉妹染色体を、赤は微小管を示す。上段は正常な細胞、中段はNDR1の発現抑制細胞、下段はFurryの発現抑制細胞を示す。
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図2 NDR1の活性化機構
NDR1は微小管結合蛋白質Furry (Fry)やMOB2との結合やリン酸化酵素であるMST2によるリン酸化によって活性化される。