加齢医学研究所遺伝子導入研究分野
骨は一度作られると変化しない石のような組織ではない。正常な強度を持った健康な骨組織は、骨形成と骨吸収とがバランスを良く行われてはじめて維持され る。この形成と吸収を司るのは、骨芽細胞と破骨細胞である。破骨細胞による吸収が行われないと、骨は硬化して骨髄腔がなくなる大理石骨病となるが、形成よ り吸収が上回ると骨密度が低下して骨粗鬆症になる。また関節リウマチの関節の破壊においても破骨細胞が重要である.したがって骨芽細胞と破骨細胞の制御の しくみを理解し,薬剤などで人為的にコントロールする方法を開発することは重要な課題である.
東北大学加齢医学研究所教授高井俊行と東京医科歯科大学大学院分子細胞機能学特任教授高柳広らの研究グループは、骨代謝を制御する新しい免疫受容体群を 発見した。この受容体は、免疫受容体の構造をもつが、骨吸収を司る破骨細胞の形成に必須な破骨細胞分化因子(RANKL)と協調して破骨細胞の形成を誘導 することが解明され、骨代謝に不可欠な新たな受容体であることがわかった。これまで破骨細胞分化因子(RANKL;ランクル)とマクロファージコロニー刺 激因子(M-CSF)という2つのサイトカインによる刺激だけで十分であると考えられてきた破骨細胞の分化に,第3のシグナル経路を司る免疫グロブリン様 受容体群が不可欠であることが世界に先駆けて示されたわけであり,第3のシグナル伝達を司る新規な受容体群はFcRγまたはDAP12という細胞膜シグナ ルアダプター分子に会合している.この受容体群からの刺激が遮断されたマウスを作成すると、破骨細胞が形成されない大理石骨病になることによってその重要性が証明された。
本研究は、骨と免疫の関係に注目した新しい学問分野である骨免疫学をさらに発展させる成果であるだけでなく、関節リウマチ、骨粗鬆症、骨腫瘍、歯周病などの骨破壊性疾患の新たな制御方法の開発に道を開くこととなり、臨床応用にも期待がもたれる。
この研究成果は2004年4月15日号のNatureに掲載された。
免疫受容体からの刺激を伝えるFcRγとDAP12遺伝子を両方欠損したマウスでは、破骨細胞が形成されないため重症の大理石骨病を呈する.左側が正常な マウス、右側がこのダブルノックアウトマウスの骨組織である。上図の病理組織像で激しい骨量の増加が観察される。下図の微小コンピューター断層像において は、吸収されなかった骨が骨髄腔を埋めつくしていることが明らかである。