所属:多元物質科学研究所・ハイブリッドナノ材料研究センター、
生命科学研究科・生体機能分子制御分野
名前:齋藤正男
URL:http://www.tagen.tohoku.ac.jp/labo/m_saito/
フラタキシンはミトコンドリアに存在する鉄結合タンパクで、その欠損が遺伝疾患であるフリードライヒ失調症を引き起こす事は知られていたが、フラタキシンの生理的役割は不明であった。分子生物学、磁気共鳴、生化学の手法を駆使した東北大多元研、Case Western Reserve Univ., Mayo Clinicの共同研究によって、ミトコンドリアのフラタキシンは、鉄シャペロンタンパクとして活性酸素種によって低下したクエン酸回路のアコニターゼ活性を回復させる役割を担っていることが明らかになった(1)。下図に模式的に示すように、活性酸素種により、アコニターゼの活性中心である鉄ー硫黄クラスターから鉄が遊離し酵素活性が低下するが、フラタキシンはアコニターゼと相互作用して迅速に鉄を不活性の3Fe-4Sクラスターに供給して活性型の4Fe-4Sクラスター構造へと修復する。フラタキシンはFe-Sクラスターの分解を保護することにより、遊離鉄の蓄積とそれにともなう有害なヒドロキシラジカルの生成を防いでいる。本研究により、フラタキシンレベルの低下やタンパク構造変化に伴うシャペロン機能などの変調は、ミトコンドリア内の鉄濃度異常、アコニターゼを含むミトコンドリア全体の活性の低下、ヒドロキシラジカルによる損傷等を引き起こし、フリードライヒ失調症進行の要因になることが明らかになった。本研究は酸化ストレス・フラタキシン・アコニターゼとフリードライヒ失調症の関連を示した事のみならず、多くの研究者が長年にわたって探していた「鉄シャペロン」タンパクを発見したことや、「鉄シャペロン」タンパクが実際に鉄含有タンパクに鉄を運び、活性中心クラスター形成をすることを示した点についても非常に高い評価を得ている。我々はin vitroで行った本研究を更に発展させ、ミトコンドリア中でも同様に酸化ストレスによって解離したアコニターゼ鉄ー硫黄クラスターがフラタキシンによって修復され、アコニターゼ活性が修復することを虚血再還流心臓を用いたin vivoの研究で解明している(2)。
- Bulteau, A.-L., O’Neill, H. A., Kennedy, M. C., Ikeda-Saito, M., Isaya, G., and Szweda, L. I. (2004) Science 305, 242-245; “Frataxin acts as an iron chaperone protein to modulate mitochondrial aconitase activity”
- Bulteau, A.-L., Lundberg, K. C., Ikeda-Saito, M., Isaya, G., and Szweda, L. I. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 102, 5987-5991; “Reversible redox-dependent modulation of mitochondrial aconitase and proteolytic activity during in vivo cardiac ischemia/reperfusion”