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生物多様性のニッチ分配説を野外で実証

生物多様性のニッチ分配説を野外で実証

2007.06.01 18:06

松島湾浦戸諸島のチョウ群集を用いて、生物多様性のパターンを説明するニッチ分配説を野外で実証

所属:生態システム生命科学専攻 生物多様性進化分野
名前:山本直明、横山潤、河田雅圭
URL:http://meme.biology.tohoku.ac.jp/EVOL/EVOL/

 生物の多様性(何種類の生物がどれくらい存在するか)がどのような要因によって決定するのかという問題は、生態学の古くからの中心的課題の一つとして多くの研究が行われてきたが、近年は、生物多様性の保全の必要性から、さらに多くの注目を集めている。
 生物多様性を説明する理論として、それぞれの種に必要な資源(食べ物やすみ場所)の量でそれぞれの種の個体数が決定されるという「ニッチ分配説」が古くから考えられていた。しかし、2001年にハッブル(S. P. Hubble)によって、生物多様性の中立説が出されて以後、2つの理論(中立説とニッチ説)の検証が重要な問題になってきた。中立説によれば、地域内での生物個体のランダムな置き換わりと外からの移出・移入によって地域の生物多様性は決まると予測する。これまで、森林群集などいくつかの群集で中立説が有効であるという論文が出されている。一方、近縁な種はそれぞれ異なる資源を利用しているという研究は、古くからあり、ニッチ説を支持する証拠とされてきた。また、近年、生物の種数とその数は、その地域の環境と関係しているという広い地域でのデータから、ニッチ理論を支持する論文も多くだされている。しかし、生物が利用する資源量を広い範囲で多くの種で定量化するのは困難で、これまでに実際の生物群集でニッチ分配説は確かめられてこなかった。
 本研究では、チョウの多様性(何種のチョウがどれくらいの数生息しているのか)の決定要因を調べるために、松島湾松島群島の浦戸諸島を調査対象とし、複数の環境の異なる島において利用する資源の種類がすでにわかっているチョウ群集を用いること、また、精度の高い航空写真と現地調査によってチョウの利用する資源の量を推定可能にしたことで、チョウの種の相対的な資源量とチョウの多様性を比較することが可能になった。その調査の結果は、異なる種の食草のバイオマス(生物量)の相対的量が、どの種のチョウがどの程度の個体数生息するのかに大きく影響していることを示した。その結果は、野外の広い範囲で、食べ物などの相対量が種の多様性を決定していることを示した初めての研究となり、ニッチ分配説を強く支持する証拠となった。この結果は、生物多様性の決定要因に関する生態学的問題解決に大きく寄与するだけでなく、生物多様性の保全面にも多くの示唆を与える。植物に食べ物などを依存する生物種の多様性は、植物の多様性に大きく依存していることを示している。また、特定の植物量(バイオマス)の相対的な量増大は、特定の種の植食者を過度に増大させる結果となり、多様性のもつ安定性を減少させる可能性を示唆している。

上空からみた朴島、野々島、寒風沢島

 本研究成果はアメリカ科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America) 電子版に掲載されました(http://www.pnas.org/cgi/content/abstract/0701583104v1). 本論文はオープンアクセスになっており、米科学アカデミー紀要のweb siteから自由にダウンロードできます。
Yamamoto, N., J. Yokoyama, and M. Kawata (2007) Relative resource abundance explains butterfly biodiversity in island communities. Proc. Natl. Acad. Sci. USA  doi:10.1073/pnas.0701583104

本研究成果は、6月5日付け河北新報1面で報道されました。

また、6月8日付けの科学新聞にも掲載されています。

関連記事(東北大学コラム)
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/webmagazine/column/col-20-kawata.html