高等植物の葯発現遺伝子の網羅的解析を国際誌Plant & Cell Physiologyに掲載
花粉とタペート細胞をLMD法で分離し、発育ステージにそって遺伝子発現を網羅的に解析
所属:生態システム生命科学専攻・植物生殖遺伝分野
名前:渡辺正夫
URL:http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/index.html
高等植物の生殖器官の発達・分化は、配偶子(n)である小胞子とその小胞子の成長を助けるタペート細胞(2n)が相互作用することで、最終的な成熟花粉となり、受粉・受精に至る。現在までの研究では、花粉のみを発育ステージごとに分画して、遺伝子発現をした例はあったが、小胞子とタペート細胞を独立にサンプリングし、その遺伝子発現プロファイルを決定した例はなかった。
本分野の博士研究員・諏訪部らが、国内の数研究室と共同して、LMD (Laser Microdissection)法により、減数分裂から、成熟花粉の5ステージに分類した花粉(小胞子)とタペート細胞を分画し、その遺伝子発現プロファイルを、44K microarrayで解析を行い、網羅的な遺伝子発現プロファイルを決定し、特徴的な発現パターンの存在などを明らかにし、国際誌Plant & Cell Physiology (Impact factor 3.7)に発表した。
この解析から、減数分裂、四分子形成、小胞子のステージで特異的な遺伝子発現があることが確認でき、花粉に成熟する小胞子とその成熟を助けるとされていたタペート細胞の遺伝子発現に、同調性があることを世界ではじめて明らかにし、従来からのタペート細胞が、一種のフィーダー細胞であるという考え方に、一石を投じた。さらに、新規なステージ特異的な遺伝子発現も明らかにでき、その発現を制御するcis因子も同定可能であることを示した。
この網羅的なデータは、葯・小胞子・花粉・タペート細胞の発達を分子レベルで理解するためには、重要な基盤であり、この情報が、日本だけでなく、世界で利用されることが期待される。また、応用的な側面として、花粉発達の制御は、例えば、遺伝子組換え植物の花粉飛散防止に利用可能である。この様に、基礎科学から、応用科学までを見すえた研究であることから、Plant & Cell Physiologyの10月号の表紙に採用された。
この研究を、他の生殖関連形質と連動させ、植物の生殖全体を明らかにしたい。
論文URL :
Watanabe(2008):http://pcp.oxfordjournals.org/cgi/content/full/49/10/1404
Suwabe et al. (2008):http://pcp.oxfordjournals.org/cgi/content/full/49/10/1407
Hobo et al. (2008):http://pcp.oxfordjournals.org/cgi/content/full/49/10/1417
Plant & Cell Physiology誌:http://pcp.oxfordjournals.org/
私たちは、最近は、イネも材料として、こうした共同研究も展開しています。また、穂孕期耐冷性などについても、その分子機構を明らかにしようと思っています。もちろん、従来からのアブラナ科植物の自家不和合性の分子機構を研究しています。
生殖にまつわる様々な形質の多くは、その現象は博物学的に記載されているが、そこに関わる分子はほとんど解明されていない。そこで、こうした点を明らかにするために、遺伝学、植物学等の基礎を持ち、分子生物学の素養を有した学生さんと一緒に研究できることを希望します。ぜひ、渡辺まで、ご連絡ください。