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国際連携により海洋微生物生態モデル系を開発 世界14カ国で行われた国際研究ツール開発プロジェクトの成果公開

国際連携により海洋微生物生態モデル系を開発 世界14カ国で行われた国際研究ツール開発プロジェクトの成果公開

2020.04.10 15:00

発表のポイント

  • 海洋には多様な微生物が存在し生態系において重要な役割を担っている。
  • 海洋微生物の遺伝学的実験を行うための方法が確立されていないことが、海洋生態系の研究を進める大きな壁となっていた。
  • 本研究では、世界の14ヶ国の53研究室が行った、海洋微生物の遺伝学的実験方法の検討結果をまとめた。
  • 手法の開発を行った38種のうち、13種は世界で初めて遺伝学的に改変するツールを開発することに成功し、8種は従来の方法を改善し、17種はツールの開発はできなかったが成功させるために必要なデータを得ることができた。
  • 本研究は、今後の海洋微生物研究を進める上での重要な指標となる。
 

概要

 地球上の70%は海洋に覆われており、そこには多様な微生物が存在し生態系を支えています。これらの微生物がどの様な生態的地位を占め、海洋の食物網や物質循環においてどのような役割を担っているかを調べるため、数多くの研究がなされてきました。しかしこれらの生物で遺伝子の機能を調べるための遺伝学的なツール*1の開発が進んでいないことが、研究の大きな壁となっていました。東北大学大学院生命科学研究科の丸山真一朗助教らのグループは世界14カ国の研究グループで構成される海洋微生物の遺伝学的実験手法の開発プロジェクトに参加し、その成果を誰もが利用できる形にまとめました。本研究は今後の海洋生物学研究を進める上での重要な指針となる報告です。本研究結果は、4月6日付でNature Methods誌(電子版)に掲載されました。。
 
 

詳細な説明

 海洋に生息する微生物は大気中への酸素供給や物質循環、食物連鎖などにおいて大きな役割を担っています。そのため、地球上にどのような種類の微生物が存在し、どのような役割を担っているかに関する研究は長い歴史を持ちます。しかし、これらの生物の役割をより詳細に解析する上で、遺伝学的手法の開発が進んでいないことが、研究を進める上での大きな壁となっていました。このような手法の開発はこれまでも個別の研究グループにより世界中で行われてきましたが、生物ごとに最適な条件が異なることから地道な検討の繰り返しで、失敗のリスクも高く、途中経過が成果として評価されにくいため研究資金を得ることが難しいという性質を持ちます。そのため、どのような手法開発がすでに試験されていて、どのような結果が得られ、どの段階まで進んでいるのか、という状況を研究者コミュニティが共有できていないという問題がありました。
 本研究は米国のGordon and Betty Moore Foundationの海洋微生物の遺伝学的手法開発プロジェクトのもとで行われました。世界中の微生物研究者がそれぞれの研究対象である生物の遺伝学的解析手法の開発に取り組み、その成果を成功・失敗に関わらず、今後の研究のために誰もが利用できる形で公開するプラットフォームを構築することに成功しました。今回のプロジェクトの中では様々な系統の中から選ばれた38種の遺伝子解析手法の開発が行われました。その結果、13種は世界で初めて遺伝学的に改変するツールを開発することに成功し、8種は従来の方法を改善し、17種はツールの開発はできませんでしたが成功させるために必要なデータを得ることができました。今後は本研究を基に、さらなる海洋微生物学研究が進むことが期待されます。
 本研究は、Gordon and Betty Moore Foundationの支援を受けて行われました。

 
 
 
今回の解析対象の一つとなった褐虫藻(赤:クロロフィル蛍光)
褐虫藻はサンゴなどの刺胞動物と共生する。宿主の核(青)と細胞骨格(緑:チューブリン)の可視化などにより共生の状態が観察できる。

 
 
 
【用語説明】
 
*1 遺伝学的なツール
遺伝子を破壊する(ノックアウト)、導入する(ノックイン)、遺伝子の発現を抑制する(ノックダウン)といった遺伝子の発現を操作する手法

 
 
 
 
【論文題目】
題目:Genetic tool development in marine protists: emerging model organisms for experimental cell biology
著者:Faktorová, D., … Y. Ishii, ... S. Maruyama, … T. Mock, A. Z. Worden, J. Lukeš [113 authors]
雑誌:Nature Methods
DOI10.1038/s41592-020-0796-x

 
 

 

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科
担当:助教 丸山 真一朗(まるやま しんいちろう)
電話番号:022-795-6689
E-mail:maruyama(at)tohoku.ac.jp
             
<報道に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科
担当:高橋 さやか (たかはし さやか)
電話番号: 022-217-6193
E-mail: lifsci-pr(at)grp.tohoku.ac.jp