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脳内グリアによるてんかん重篤化メカニズムの解明 グリア細胞を標的とした新規てんかん治療戦略の開発へ

脳内グリアによるてんかん重篤化メカニズムの解明 グリア細胞を標的とした新規てんかん治療戦略の開発へ

2021.01.29 14:00

発表のポイント

  • 脳内グリア細胞*1の一種であるアストロサイトの細胞機能は、まわりの神経活動に応じて可塑的に変化することが示されました。
  • アストロサイト細胞機能の可塑性が、てんかんの重篤化につながることを発見しました。
  • これまでの抗てんかん薬は、神経細胞を標的としたものがほとんどでしたが、アストロサイトの機能変化を抑制する治療戦略によって、てんかんの重篤化の予防に繋がることが期待されます。
     

概要

 脳は、神経細胞とグリア細胞の2種類の細胞で成り立っています。グリア細胞の一種であるアストロサイトは、脳内イオン環境を制御しており、健常な興奮と抑制バランスの維持に重要です。東北大学大学院生命科学研究科の小野寺麻理子(博士後期課程学生・日本学術振興会特別研究員)・松井広教授らのグループは、神経細胞の過剰な興奮によってアストロサイトの機能に可塑的な変化が誘導され、脳内イオンバランス機構が乱れることで、てんかんの重篤化が進むことを明らかにしました。また、実験動物のマウスを用いた研究では、アストロサイトの機能的な変化のきっかけはアストロサイトの細胞内がアルカリ化することであることが示され、この機構を薬理学的に阻害すると、てんかん発作の重篤化を防止できることを解明しました。本研究成果は、将来的には、アストロサイトを標的とした、新規抗てんかん治療戦略の開発に繋がることが期待されます。
 本研究成果は、2021年1月21日付でJournal of Neuroscience誌にEarly Releaseとして掲載されました。
 
 
てんかん重篤化メカニズムとその治療戦略
 神経細胞のてんかん様発火により、細胞内から細胞外へとK+が排出されます。この細胞外K+の蓄積により、アストロサイトが脱分極し、NBCが活性化され、HCO3-がアストロサイト細胞内へと流入します。HCO3-は細胞内をアルカリ化させます。ギャップ結合の透過性は、細胞内pHの変動に反応し、大きく変化することが知られています。そのため、HCO3-流入による細胞内のpH変化に伴いアストロサイト間を繋ぐギャップ結合透過性が減少します。ギャップ結合の閉塞によりアストロサイト間のイオン輸送は阻害されるため、細胞外K+ クリアランス機能が障害されます。細胞外K+の蓄積は、細胞の脱分極による過興奮状態を作り出します。したがって、このようなアストロサイトの可塑的な変化はてんかん重篤化の要因であると考えられます。
 一方、てんかん様発火に誘発されるNBCの活動を阻害することにより、アストロサイト細胞内のアルカリ化、及びギャップ結合閉塞の防止に繋がります。アストロサイト間のイオン輸送が維持されることで、細胞外K+ クリアランス機能も保持されます。したがって、有害なアストロサイトの可塑的変化の抑制は、てんかんの発展と重篤化を未然に防ぐ新しい治療戦略に繋がると考えられます。

 

【用語説明】
*1 グリア細胞:
脳内の細胞は、神経細胞とグリア細胞に分類されます。神経細胞は活動電位で情報を表現し、神経細胞同士をシナプス結合でつなぐネットワークで脳内情報処理が進むと考えられてきています。グリア細胞は、神経細胞の隙間を埋めて、神経細胞への栄養供給をする存在だと考えられてきましたが、近年、グリア細胞も特有の情報表現をしていて、神経細胞の担う情報処理に影響を与えることが認識されるようになってきました。K+クリアランス(下記*2)も、グリア細胞の担う重要な機能のひとつであり、今回、このK+クリアランス機能が可塑的に変化することが示されました。今回、捉えたのは、てんかん病態時における変化ですが、生理的な条件でもギャップ結合が変化することで、脳内情報処理の特性が変化する可能性も考えられます。

*2 K+クリアランス:
K+クリアランスは、細胞外K+濃度を正常値に保ち、脳内の興奮性を制御するアストロサイトの機能です。神経活動後、細胞外K+濃度が増加します。細胞外に増加したK+は、アストロサイトに取り込まれた後、ギャップ結合で繋がったアストロサイト同士のネットワーク内部を濃度勾配に従って移動することにより除去されます。
 

 
 
 
 
【論文題目】
題目:Exacerbation of epilepsy by astrocyte alkalization and gap junction uncoupling
 
著者:Mariko Onodera, Jan Meyer, Kota Furukawa, Yuichi Hiraoka, Tomomi Aida, Kohichi Tanaka, Kenji F. Tanaka, Christine R. Rose and Ko Matsui
 
筆頭著者情報
氏名:小野寺 麻理子
所属:東北大学 大学院生命科学研究科 脳生命統御科学専攻 細胞ネットワーク講座 超回路脳機能分野
 
雑誌:Journal of Neuroscience
 
 
【お問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科 
担当:教授 松井 広(まつい こう)
TEL: 022-217-6209
E-mail: matsui(at)med.tohoku.ac.jp
 
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当:高橋 さやか(たかはし さやか)
TEL: 022-217-6193 
Email: lifsci-pr(at)grp.tohoku.ac.jp