生命機能科学専攻・器官形成分野
田村宏治、野村直生
鳥類が恐竜の一部から進化したことは羽毛恐竜の発見などさまざまな証拠から広く支持されている。しかし、化石から得られる証拠は恐竜の前足の3本の指が第1-2-3指であることを示している(図1)のに対し、発生学的解析から得られる証拠は鳥類のそれが第2-3-4指であることを示しており、このパラドクスは鳥類の恐竜起源説に対する最大の課題とされてきた。今回、田村宏治教授と大学院生・野村直生ら器官形成分野のグループは、ニワトリの前肢(翼)の指が形成される発生過程を詳細に追跡し、その3本の指が第2-3-4指ではなく、第1-2-3指として形成されていることを証明し、始祖鳥の発見以来150年に及ぶこの問題を解決した。この研究成果は,米国の学術専門誌サイエンス(Science) に2月11日午前4時(日本時間)付けでオンライン発表された。

図1. 恐竜の前足と鳥類の翼の指の骨格(模式図)
鳥類であるニワトリは前肢に3本、後肢に4本の指をもち,哺乳類のマウスは前・後肢ともに四肢動物の基本型である5本の指をもつ。田村と野村らは、マウス前肢とニワトリ後肢の第4指の発生過程と、ニワトリ前肢の最も後ろ側の指(最後指)の発生過程(図2)を移植実験と細胞標識実験を用いて比較した。

図2. ニワトリ前肢の発生過程(模式図)左から、ふ卵開始3日目、3日半目、10日目
すると、ニワトリ後肢の第4指をつくる前駆細胞は、過去の研究からマウス前肢で示唆されているのと同様に,発生初期から指の番号が指定される時期までずっと肢芽のZPAとよばれる領域に留まっていた。その一方、ニワトリ前肢の最後指をつくる前駆細胞は発生初期にはZPA内にあるものの、指の番号が指定される時期までにそれらの細胞は前側に“ずれ”て、ZPAの外の第3指指定領域に移動していることが示された(図3)。この結果は、ニワトリ前肢の最後指はマウス前肢やニワトリ後肢の第4指と異なり,第3指として発生していることを示す。そして、これまで発生学者がニワトリ前肢の指を第2-3-4指としてきたのは、この“ずれ”を見逃していたことが原因と考えられた。

図3. ニワトリの前肢における“ずれ”が、前肢の第1-2-3指形成の原動力である
これまで発生学の全ての教科書が鳥類の前肢の指を第2-3-4指と記述してきており、今回の研究成果はその教科書のいちページを塗り替えるものである。さらに、この研究は鳥類の恐竜起源説の最後の課題とも言われる指のパラドクス問題をついに解消した研究となっている。恐竜の進化はこれまで主に古生物学と比較形態学によって研究されてきたが、現存する動物の形態が形成されていく過程を解析する発生学という手法によって、動物の進化過程を説明するという今回の研究手法は、進化研究に対する先進的な研究手法といえるだろう。
Tamura, K., Nomura, N., Seki, R., Yonei-Tamura, S., and Yokoyama, H.(2011).
Embryological evidence identifies wing digits in bird as digits 1, 2,
and 3. Science 331, 753-757.
本研究成果は、下記の報道機関にて紹介されました。
2月11日付け、NHKニュース,KHB東日本放送ニュース,日本経済新聞,河北新報,読売新聞,朝日新聞,毎日新聞,静岡新聞,西日本新聞,共同通信, 時事通信,
LiveScience.com,Scienceのオンラインニュース