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生命科学Webセミナー 「合成生物学で「植物を創って理解する」」

生命科学Webセミナー 「合成生物学で「植物を創って理解する」」

2020.07.20 15:00
日時: 2020年7月28日(火), 16:00~
 
セミナー形式: Zoom 配信によるオンラインセミナー
 視聴方法については配信したメールをご確認下さい。 
 
講演:公益財団法人かずさDNA研究所 花野 滋 研究員
 
演題:合成生物学で「植物を創って理解する」
 
要旨:
 植物の茎(地上部)と根の分化は、植物の初期発生の大きなイベントの一つであるだけでなく、陸上植物の進化の観点からも非常に興味深い生命現象です。従来の研究では、茎を作り出す茎頂の分裂組織を構成・維持する遺伝子群の研究は進んでいましたが、茎を作り出す仕組みそのものは明らかになっていませんでした。今回、私たちはバイオインフォマティクス解析でシステマティックに選び出した転写因子群をシロイヌナズナ植物体に導入し、遺伝子を組み合わせて「機能を付与する」合成生物学の手法を用いて、植物の根の一部を茎の特徴をもつ器官(茎様器官)に変換させることに成功しました[1]。
 私たちは、バイオインフォマティクス解析で選び出した9個の転写因子をコードする遺伝子群を、多重遺伝子連結法[2]を用いて発現誘導型プロモーターカセットと交互に連結して、一つの植物形質転換用プラスミドを構築しました。これをシロイヌナズナに導入し、植物体内で9遺伝子を同時に発現誘導することによって、根の一部が重力に逆らって上へ伸びる重力屈性異常、光合成活性を示す葉緑体の形成、維管束の分化、本来地上部で発現している遺伝子群の発現誘導と根で発現している遺伝子群の発現抑制を観察しました。さらに遺伝子群を絞り込み、ARABIDOPSIS THALIANA HOMEOBOX PROTEIN 25(ATHB25、At5g65410)とB3ファミリー転写因子REPRODUCTIVE MERISTEM 7(REM7、At3g18960)の2つの転写因子が根を茎に変換する鍵因子であることがわかりました。興味深いことに、根から人為的に創られた茎様器官は、再び根を再生することもわかりました。本研究は、茎への再分化および茎から根を誘導するフィードバック制御を人為的に再現したものです。この現象は、従来の研究で困難であった地上部(茎)と根の初期発生時における細胞間コミュニケーションを明らかにするモデルとなりうると考えられます。将来、我々の持つ多重遺伝子連結法や長鎖DNAクローン[3]を用いた技術を使って、細胞の初期化(脱分化)に関わる遺伝子群や新たな転写因子群と、茎様器官を創る転写因子群とを組み合わせることができれば、植物器官を自由自在に創り出し生命現象を再現して理解することが可能になると考えています。本セミナーでは、植物の発生・分化の分子基盤を理解する際の合成生物学のメリット・デメリットについても議論したい。
 
1. Shigeru Hanano et al., iScience 101332 - 101332 2020年 
DOI: https://doi.org/10.1016/j.isci.2020.101332
 
2. Eiji Takita et al., DNA Research 20(6) 583 - 592 2013年 
DOI: https://doi.org/10.1093/dnares/dst032
 
3. Yoshitsugu Hirose et al., Plant Journal 83(6) 1114-1122 2015年
 
 
主催:生命科学研究科 ダイバーシティ推進委員会
連絡先:佐藤修正(共生ゲノミクス分野, shusei.sato.c1(at)tohoku.ac.jp)