【開催日時】
2025.5.16 (Fri) 15:00-16:30
【講師】
松田祐介 教授
(関西学院大学・生命環境学部)
【題目】
海洋性珪藻の特殊な葉緑体を作る構造と機能
【開催形式】
ハイブリッド
【会場】
現地:東北大学 学際科学フロンティア研究所 1Fセミナー室
オンライン:直接下記URLからご参加ください(登録制ではありません)
ミーティング ID: 835 0852 7049
【使用言語】
日本語
【要旨】
海洋性珪藻類は、特に高緯度域の海洋に繁栄しており、リモートセンシング衛星観測による推計では、地球上の光合成の約20%を占めるとされる。珪藻は緑藻を葉緑体化した後に紅藻型葉緑体に“換装”した複雑な二次共生を経て、約2億年前に成立した二次共生藻である。葉緑体包膜構造は4重で、ストロマの中心にはCO2固定化酵素Rubiscoが相分離したピレノイドを持ち、陸上植物とは全く異なる葉緑体構造を有している。ピレノイドは中心部に1~2層の貫通チラコイド様膜(PPT)を持ち、PPTでは、その内腔に特異的に局在するθ型炭酸脱水酵素によって、ストロマに溜め込んだHCO3-をCO2に変換してRubiscoにかけ流しのように供給する。この“CO2発生マシナリ構造”により珪藻は効率の高い光合成が可能である。ピレノイドのこの構造形成に関わる分子はこれまで全く知られていなかった。我々のグループは、光アミノ酸感光架橋技術を用いて珪藻ピレノイドを生体内で“その場”固定し、Rubiscoと相互作用してピレノイド覆うように局在する未知因子を発見し、Pyrenoid+Shel(l PyShell)と名付けた。このタンパク質の一つを精製し、試験管内で濃縮したところ、シートやチューブ様の構造体を自己組織化した。この構造体をクライオ電子顕微鏡観察し、その周期性をサブトモグラム平均化後、単一粒子解析したところ、PyShell同士がC末端突出を介して、表裏を入れ子にしながら互いに90°に配向して、チューブを作ることが分かった。さらに、クライオ電子トモグラム(CET)を用いて生体内のピレノイドを観察したところ、PyShellと考えられるシートがピレノイドを覆っていることを確認した。主要なPyShellをゲノム編集で破壊したところ、珪藻は大気レベルCO2での生育が難しくなり、光合成効率は野生株の1/80程度まで極端に落ちてしまった。さらに、CET観察によりPyShellとピレノイド構造の消失が確認された。PyShellは水圏光合成の効率を維持するための葉緑体構造形成に必須な構造タンパク質であることが明らかとなった。
参考文献:Shimakawa G…Matsuda et. al. (2024) Cell 187(21): 5919-5934, e19,
https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.09.013
https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.09.013
主 催:東北大学 学際科学フロンティア研究所
Oraganizer:奥村正樹 准教授(okmasaki@tohoku.ac.jp)