生命科学研究科附属浅虫海洋生物学教育研究センター
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クリアファイル&絵葉書に掲載した生物についてご紹介いたします。

アサガオクラゲ
Haliclystus auricula James-Clark, 1863
刺胞動物門十文字クラゲ綱.アサガオクラゲを含む十文字クラゲ類は,他のグループ(綱)と異なり,1つのポリプが出芽などせず(無性生殖自体はする),1つのクラゲに変態する(Miranda et al. 2018).このグループの大半は海藻上に棲息し,そのためか海藻のように熱帯で多様性が低く,温帯で多様性が高いことで知られ,また最近のDNAを用いた研究によって,本種のように,かつて北半球と南半球の両方に棲息していると考えられていた種が実は南北で別種であることもわかってきている(Miranda et al. 2018).はたしていつからこのような分布パターンになったのか.
Miranda LS, Mills CE, Hirano YM, Collins AG, and Marques AC (2018) A review of the global diversity and natural history of stalked jellyfishes (Cnidaria, Staurozoa). Marine Biodiversity 48: 1695–1714.

キタユウレイクラゲ
Cyanea capillata (Linnaeus, 1758)
刺胞動物門鉢虫綱.無数に生えるその長い触手からライオンタテガミクラゲと呼ばれることもある.このように1種(1学名)に対して複数の慣用名が知られているものも少なくない.ユウレイクラゲ属は日本の南にユウレイクラゲC. nozakii,北に本種が知られている(久保田1992).本種は長い間広く世界に分布するものと考えられてきたが,近年分子生物学的手法などによってこの分布に異議を唱えるような研究が現れている(Dawson 2005; Sparmann 2012; Kolbasova et al. 2015).果たして日本の個体群について研究されているのだろうか.
Kolbasova GD, Zalevsky AO, Gafurov AR, Gusev PO, Ezhova MA, Zheludkevich AA, Konovalova OP, Kosobokova KN, Kotlov NU, Lanina NO, Lapashina AS, Medvedev DO, Nosikova KS, Nuzhdina EO, Bazykin GA and Neretina TV (2015) A new species of Cyanea jellyfish sympatric to C. capillata in the White Sea. Polar Biology 38: 1439–1451.
久保田信(1992)鉢虫綱.西村三郎(編)原色検索日本海岸動物図鑑[I],pp. 60–69, 保育社,大阪.
Dawson, M.H. (2005) . Cyanea capillata is not a cosmopolitan jellyfish: morphological and molecular evidence for C. annaskala and C. rosea (Scyphozoa : Semaeostomeae : Cyaneidae) in south-eastern Australia. Invertebrate Systematics 19: 361-370.
Sparmann SF (2012) Contributions to the molecular phylogeny, phylogeography, and taxonomy of scyphozoan jellyfish. Dissertation, University of British Columbia (この文献はオンライン上に公開された修士論文であるが,信頼できる貴重な情報源と判断し引用した)

シミコクラゲ
Rathkea octopunctata (M. Sars, 1835)
刺胞動物門ヒドロ虫綱.本種は1ミリに満たない小さなクラゲで,クラゲ型の姿でも有性生殖(写真の個体)の他に,口の周りで無性生殖を行うことで知られる(西村1992).これもあってか大量発生することがあり,ノルウェーでは1立方メートルに数千個体という,凄まじい密度のクラゲの層が水深15–20メートルの範囲から報告されている(Jacobsen and Norrbin 2009).どうやら,船の上から海をのぞくだけでクラゲの大量発生をみつけられるとは限らないようである.
久保田信(1992)ヒドロ虫綱.西村三郎(編)原色検索日本海岸動物図鑑[I],pp. 21–60,保育社,大阪.
Jacobsen HP and Norrbin MF (2009) Fine-scale layer of hydromedusae is revealed by video plankton recorder (VPR) in a semi-enclosed bay in northern Norway. Marine Ecology Progress Series 380: 129 –135.

オワンクラゲ
Aequorea coerulescens (Brandt, 1835)
刺胞動物門ヒドロ虫綱.下村脩博士は「オワンクラゲ」から緑色蛍光タンパク質GFPを発見したことを理由にノーベル化学賞を2008年に受賞した.実は,下村博士の「オワンクラゲ」と日本で見られる「オワンクラゲ」は別種である(久保田1992).日本で見られるのはAequorea coerulescens (Brandt, 1835)であり(久保田1992),下村博士が採集を行っていたフライデーハーバー研究所周辺(e.g. Shimomura 2005)で知られているのはA. victoria (Murbach & Shearer, 1902)である(Arai & Brink-mann Voss 1980).また最近になって,このグループからさらに別の蛍光タンパク質が報告されており(Lambert et al. 2020),蛍光タンパク質にも多様性を垣間見ることができる.
Arai MN, Brinkmann-Voss A (1980) Hydromedusae of British Colimbia and Puget Sound. Canadian Bulletin of Fisheries and Aquatic Sciences 204: 1–192.
Lambert GG, Depernet H, Gotthard G, Schultz DT, Navizet I, Lambert T, Adams SR, Torreblanca-Zanca A, Chu M, Bindels DS, Levesque V, Nero Moffatt J, Salih A, Royant A and Shaner NC (2020) Aequorea's secrets revealed: New fluorescent proteins with unique properties for bioimaging and biosensing. PLoS Biology 18: e3000936.
久保田信(1992)ヒドロ虫綱.西村三郎(編)原色検索日本海岸動物図鑑[I],pp. 21–60,保育社,大阪.
Shimomura O (2005) The discovery of aequorin and green fluorescent protein. Journal of Microscopy 217: 3–15.

ヒトツアシクラゲ
Hybocodon prolifer Agassiz, 1860
刺胞動物門ヒドロ虫綱.本種は日本では北海道と青森からみつかっており,ポリプとクラゲの両方のステージが知られ,後者の傘縁の一か所からのみ触手が生えることが種の特徴であるが(西村1992),ポリプについても興味深い現象が報告されている.中山(1999)によれば固着生活を送るポリプの根にあたる部分は,水温15℃以上で休眠,10℃以下でポリプを形成し,これを小片に千切ってもそれぞれからポリプが形成されるというのである.いったいその仕組みはどのようなものなのか.
中山晶絵(1999)眠るクラゲ―ヒトツアシクラゲの生活史―.遺伝53(8): 44–50.
久保田信(1992)ヒドロ虫綱.西村三郎(編)原色検索日本海岸動物図鑑[I],pp. 21–60,保育社,大阪.
カミクラゲ
Spirocodon saltatrix (Tilesius, 1818)
刺胞動物門ヒドロ虫綱.本種は,8つの三角形状の傘縁から,長い髪のような触手が多数生えることを大きな特徴とし,日本,韓国,ロシア(サハリン)に分布する (Park 2012).この他に本種は傘縁の触手基部に赤い眼点が多数分布しており,光受容に関する研究が知られている (e.g.大津1989).また,現在では,受精に際し様々な動物門で,精子が化学物質を頼りに卵に向かって泳いでいく現象(走化性)が知られているが,実は最初に後生動物でこの現象が報告されたのはDan (1950)によるカミクラゲの実験である(Yoshida 2014). このようにいくつも研究例があるので,人気のある種と言えるかもしれない.
Dan JC (1950) Fertilization in the medusan, Spirocodon saltatrix. Biol Bull 99:412–415.
大津浩三(1989)ヒドロ虫類カミクラゲの光感覚系における紫外光・可視光拮抗現象.動物生理6: 32–40.
Park JH (2012) Cnidaria: Hydrozoa Hydromedusae. Invertebrate fauna of Korea, Vol 4, No. 3. National Institute of Biological Resources Ministry of Environment, Incheon, Korea. Pp. 78.
Yoshida M (2014) Sperm Chemotaxis: The first authentication events between conspecific gametes before fertilization. In: Sawada H, Inoue N, Iwano M eds. Sexual Reproduction in Animals and Plants, pp. 3–11, Springer Japan..

キヒトデ
Asterias amurensis (Lütken, 1871)
棘皮動物門.マヒトデともいう.食害や混獲といった漁業被害をもたらすことがある.本種は中心から腕の先端までの長さが19㎝に達する大型のヒトデで最大体長は50㎝,色は個体によって異なることがあり,紫色の斑がないものもある.平均寿命は2-3年,最長寿命は5年.雌雄異体.1年で成熟し,有性生殖をおこなう.1匹のメスは最大で1900万個の卵を放出する.無性生殖も可能で体の中心部の一部と腕が最低1本残っていれば再生できる(岡田 1965).本来は日本,中国北部,朝鮮半島からロシアの太平洋岸に分布するが,1980年代後半にオーストラリア南部に移入.侵入経路はバラスト水中に幼生が混入したと考えられている(Ward & Andrew 1995).イガイ類,腹足類,二枚貝,カニ,軟体動物,ホヤ,海綿,甲殻類,魚類,棘皮動物など様々な生物を捕食し,天然あるいは養殖の二枚貝やカキの養殖に大きな被害を与えることがあり(Ross et al. 2002),生態学的に最も脅威的な侵略的外来種の一つとされる(Lowe et al. 2000).
岡田要 (編) 新日本動物図鑑 下, pp. 63, 北隆館, 東京.
Ward RD, Andrew J (1995) Population genetics of the northern Pacific seastar Asterias amurensis (Echinodermata: Asteriidae): allozyme differentiation among Japanese, Russian, and recently introduced Tasmanian populations. Marine Biology 124(1): 99–109.
Ross DJ, Johnson CR, Hewitt CL (2002) Impact of introduced seastars Asterias amurensis on survivorship of juvenile commercial bivalves Fulvia tenuicostata. Marine Ecology Progress Series 241: 99–112.
Lowe S, Browne M, Boudjelas S, De Poorter M (2000) 100 of the World’s Worst Invasive Alien Species A selection from the Global Invasive Species Database. The Invasive Species Specialist Group (ISSG) a specialist group of the Species Survival Commission (SSC) of the World Conservation Union (IUCN).

ムツサンゴ
Rhizopsammia minuta mutsuensis Yabe & Eguchi, 1932
刺胞動物門.黄色く小さいサンゴの仲間.名前は陸奥湾から記載されたことに因む.北方に生息する礁を形成しないサンゴの一種で,陸奥湾で記載された(Yabe & Eguchi 1932).若狭湾以北の本州日本海沿岸,陸奥湾,石狩湾,伊豆半島周辺などに分布する.岩盤を這う石灰で作られたコップ状の骨格から径5㎜程度のサンゴ個体が,8㎜程度の高さに突出する.共肉(ポリプの連結部)及び触手は鮮やかな黄色.薄い根のような走根を伸ばし,その先端から芽が生えるようにして繁殖する.陸奥湾の浅虫では,8月中旬から9月初旬に幼生の放出が観察されている.多くの場合,水深1~2mの岩礁に着生するが,水深40mで発見されたこともある.低水温に適応しており,2℃でも生活可能(酒井 1992).
Yabe H, Eguchi M (1932) Report of the biological survey of Mutsu Bay. 23. Rhizopsammia minuta Van Der Horst var. mutsuensis, nov., an eupsammid coral. Science Reports Tohoku Imperial University, 4th Series (Biology) 7 (2): 207–210.
酒井一彦 (1992) 花虫綱 イシサンゴ目. 西村三郎(編) 原色検索日本海岸動物図鑑[I], pp. 147–167, 保育社, 大阪.
イトマキヒトデ
Patiria pectinifera (Muller & Troschel, 1842)
棘皮動物門.研究材料として重宝されている. 日本の岩礁域によく見られる.暗い青色もしくは緑色にオレンジ色の不規則な斑模様がある.腕の切れ込みが浅く,5角形のような形をしている.6~7月ごろ産卵し,ブラキオラリア型の幼生を経て成体になる(岡田 1965).キヒトデと同様に腹側の中心にある口から胃を出して,二枚貝や魚など様々な餌を食べる.古くから生化学の研究に用いられ,特異的な糖脂質(Smirnova & Kochetkov 1980) や新種の抗菌ペプチド(Kim et al. 2018)などが発見されている.
岡田要 (1965) 新日本動物図鑑 下, pp. 57, 北隆館, 東京.
Smirnova GP, Kochetkov NK (1980) A novel sialoglycolbpid from hepatopancreas of the starfish Patiria pectinifera. Biochimica et Biophysica Acta (BBA)-Lipids and Lipid Metabolism 618(3): 486–495.
Kim CH, Go HJ, Oh HY, Park JB, Lee TK, Seo JK, Elphick MR, Park NG (2018) Identification of a novel antimicrobial peptide from the sea star Patiria pectinifera. Developmental & Comparative Immunology 86: 203–213.
マボヤ
Halocynthia roretzi (Drasche, 1884)
脊索動物門.成体は固着生活を送るが,幼生はオタマジャクシのような形.食用.研究材料でもある.体長は最大で150㎜になり,直立して後端で付着する.被嚢は薄いが堅く丈夫で,生きている時は鮮やかなあるいはくすんだ赤橙色となる.本種には放卵放精の時期と時刻の違う3型(朝型,昼型,夕刻型と呼ぶ)があり,外見もそれぞれで多少異なるが,内部形態に差はない(Numakunai & Hoshino 1973,1974).これまでの調査によれば,陸奥湾には3型すべてが生息し,北海道では朝型のみ,その他の地方では昼型だけである(西川 1992).東北地方では養殖され,筋膜体が食用とされる.ホヤはヒトと同じ脊索動物門に属するが,その構造は比較的シンプルであるため,発生学の研究に用いられてきた.特に胚では,ほとんどの割球の発生運命がひとつの組織に限定されており,各割球の発生運命を示した細胞系譜が記載されることで(Nishida 1987),発生学の発展に寄与した.また,100年前に予見された卵細胞質中の筋肉決定因子(macho-1)は比較的最近になって同定された(Nishida & Sawada 2000).
西川輝昭 (1992) ホヤ綱. 西村三郎 (編), 原色検索日本海岸動物図鑑[II], pp. 575–604, 保育社, 大阪.
Nishida H (1987) Cell lineage analysis in ascidian embryos by intracellular injection of a tracer enzyme. III. Up to the tissue restricted stage. Developmental Biology 121:526–541.
Nishida H, Sawada K (2001) macho-1 encodes a localized mRNA in ascidian eggs that specifies muscle fate during embryogenesis. Nature 409: 724–729.
Numakunai, T.,and Z.Hoshino (1973) Biology of the ascidian, Halocynthia roretzi (Drasche), in Mutsu Bay. I. Differences of spawning time and external features. Bull. Mar. Biol. Stat. Asamushi, Tohoku Univ., 14:191–196.
Numakunai, T.,and Z.Hoshino (1974) Biology of the ascidian, Halocynthia roretzi (Drasche), in Mutsu Bay. II. One of the three Types which has the spawning Season and the time different from two others. Bull. Mar. Biol. Stat. Asamushi, Tohoku Univ., 15:23–27.

コモチイソギンチャク
Epiactis japonica (Verrill, 1869)
刺胞動物門.その名の通り,親の体に付着した状態で子供が成長する.本種は直径3~6㎝の低い円錐状で,しぼむとさらに平らになる.体の側面の中部に小さな突起があり,その周りに幼体を付けているものがある.色は個体によって大きく異なる.北海道から本州中部の岩礁海岸の潮間帯から潮下帯に分布する(内田 1992).大きな岩の下などに多い.おなじ刺胞動物であるクラゲと同様に,イソギンチャクもアクチノポリンという毒を持ち,獲物の動きを封じる.その物質の構造は複雑だが,菌類やイモガイ,ヒドラなどの毒と類似性が高いことが分かった(Macrander & Daly 2016).
内田紘臣 (1992) 六放サンゴ亜綱 イソギンチャク目. 西村三郎 (編) 原色検索日本海岸動物図鑑[I], pp. 127–147, 保育社, 大阪.
Macrander J, Daly M (2016) Evolution of the cytolytic pore-forming proteins (Actinoporins) in sea anemones. Toxins 8(12): 368.
アオウミウシ
Hypselodoris festiva (A. Adams, 1861)
軟体動物門.青色と黄色のウミウシ.触角と鰓はオレンジ色.ウミウシは殻をなくした貝の仲間であり,殻に代わる防御方法として餌であるカイメンから取り込んだ化学物質を体内に蓄積させ,自分の体を不味くしている(Karuso 1987).肉帯の前方に1対の触角があり,触角にはひだがある.背面の後方にある「ふさ」は鰓葉とよばれる二次鰓であり,鰓葉の中心部に肛門がある.本種の体色は青,肉帯の縁は黄色.背面の正中線上に,触角の間から鰓葉の付け根まで,黄色の線(時に不連続)が縦に走る.体長は40㎜まで.日本のほとんど全域に分布している(濱谷 1992).
Karuso P (1987) Chemical ecology of the nudibranchs. In Scheuer, PJ (ed.). Bioorganic marine chemistry. 1. Springer, Berlin, Heidelberg. Pp. 31–60.
濱谷厳 (1992) 後鰓亜綱. 西村三郎(編) 原色検索日本海岸動物図鑑[I], pp. 267–290, 保育社, 大阪.