
研究テーマ
私の研究テーマを一言で表しますと、「タンパク質を対象とした化学反応の開発(タンパク質化学修飾)、および開発した反応の生命科学研究への応用」です。化学反応によりタンパク質上に物質を導入するタンパク質修飾技術は、2022年のノーベル化学賞である「クリックケミストリーと生体直交反応」に代表されるように、この10年で注目されるようになりました。また、近年タンパク質化学修飾技術は新たな医薬品の開発にも応用されています。
私の博士論文では、タンパク質を構成する20種類の天然アミノ酸残基のうち、チロシン残基およびヒスチジン残基をそれぞれ選択的に化学修飾可能なタンパク質修飾反応を開発しました。また、開発した独自のチロシン残基およびヒスチジン残基選択的な修飾反応を応用することで、①タンパク質上の特定の箇所を選択的に化学修飾する技術、②タンパク質と生体分子の相互作用の解析手法、を開発することに成功しました。
生命科学研究科での生活で印象に残っていること
2点あります。
①生命科学研究科に所属することで、目に見えないミクロの世界から、個体、ひいては集団であるマクロの世界まで、多種多様な研究がなされている環境に身を置くことができました。良い意味で「カオス」な環境で3年間、じっくり研究することができ、様々な知識、技能、さらに物事を多角的に観る視点を身に着けることができました。また、その過程で、先生方、学生の皆様、さらには共同研究者の皆様方、数多くの方々と出会い、ディスカッションさせていただきました。貴重な機会を与えてくださった皆様に感謝申し上げます。
②私が生命科学研究科に編入学した2020年4月より新型コロナウイルス感染症が流行したことで、困難は多くありました。一方で、良い点もあり、コロナウイルス流行以前の「大学院生のモデル」にとらわれることなく、自分らしく研究に打ち込むことができたと思っています。
将来の目標
漠然とした目標ですが、現在は研究者としての人生を歩みたいと考えています。これまでの研究生活、特に博士課程において自分らしさとは何かということを考えさせられました。自分が面白いと思うこと、自分しか思いつかない仮説を実証していきたいと思っており、その研究成果や論文という形で自分の名前を残すという野望があります。
一方で、これまでの私の研究生活は多くの方々、ひいては社会全体に支えられていたと感じています。恩返しとして、具体的なものは定まっていませんが、研究を通じて社会に貢献したいと考えています。
後輩へのメッセージ
指導いただいた先生より「縁(人との出会い、実験結果との出会い)を大切にしなさい」と教えていただきました。私には、生命科学研究科という多様な人が所属する恵まれた環境、複数の共同研究者との出会いがありました。また、実験結果において、幸運にも興味深い現象と出会うことができ、2年の月日をかけて独自のタンパク質化学修飾反応を開発することができました。この記事を執筆するにあたり、改めて研究生活を振り返り、私の博士課程は多くの縁に恵まれたものであったと再確認しました。現在、生命科学研究科に所属する大学院生の皆様も、現在までに出会っている人、手元にある実験結果を大切にしながら、積極的に新たな縁を獲得していっていただきたいです。私自身これからも、人との出会い、実験結果との出会いの重要性を理解して、より研究者として成長することを目指します。
PROFILE
中根 啓太
2016年3月 | 群馬工業高等専門学校 物質工学科 卒業(準学士(工学)) |
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2018年3月 | 群馬工業高等専門学校 環境工学専攻 修了(学士(工学)) |
2020年3月 | 東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系ライフエンジニアリングコース 修士課程 修了(修士(理学)) |
2021年4月 - 2022年3月 | サントリー生命科学財団 SUNBOR SCHOLARSHIP 奨学生 |
2022年4月 - 2023年 | 日本学術振興会特別研究員(DC2) |
2023年3月 | 東北大学大学院 生命科学研究科 博士課程後期3年の課程 修了 (博士(生命科学)) |
2022年4月 より | 日本学術振興会特別研究員 (PD) |
受賞歴 | |
2019年9月 | 第13回バイオ関連化学シンポジウム 優秀ポスター賞 RSC特別賞 |
2021年3月 | 日本薬学会第141回年会 学生優秀発表賞 |
2022年3月 | 日本薬学会第142回年会 学生優秀発表賞 |
2022年6月 | 日本ケミカルバイオロジー学会第16回年会 ポスター賞 |
2023年3月 | 東北大学 総長賞 |
2022年3月 | 東北大学大学院 生命科学研究科 研究科長賞 受賞 |