
研究テーマ
私は、生体防御の最前線である自然免疫の中でも、DNAウイルスに対する免疫反応を司るSTINGというタンパク質に関する研究を行いました。DNAウイルスは複製・増殖のために宿主細胞に感染し、その過程で自身のDNAを細胞内に放出します。このウイルス由来DNAの放出が合図となり、STINGは自然免疫応答を誘導するために活性化されます。これまでの研究で、STINGがパルミトイル化という脂質修飾を受けることが自然免疫応答に重要であることが示されていましたが、その意義については不明でした。そこで私は、岐阜大学の鈴木健一先生のグループと共同で、超解像蛍光顕微鏡技術を駆使してSTINGの細胞内動態を詳細に解析しました。その結果、STING分子がパルミトイル化を介して20分子以上が密に集まりクラスターを形成することで、自然免疫応答を誘導していることを突き止めました。STINGは自己炎症性疾患や神経変性疾患にも関与することが示されており、私の研究成果がこれらの疾患の治療法開発に貢献することを期待しています。
生命科学研究科での生活で印象に残っていること
私は、東北大学理学部生物学科の研究室に配属されて以来、生命科学研究科の博士後期課程を修了するまで、同じ研究室に所属していました。その期間は約6年半に及びますが、振り返るとあっという間でした。ご指導いただいた先生方や研究室の仲間には、心から感謝しています。大学院進学当初、私はアカデミアに残り、研究者としての道を歩むことを目指していました。しかし、研究成果を上げ続けることができるのか、自分の研究能力に自信が持てず、博士後期課程への進学を悩んだ時期がありました。そのとき、教授をはじめ研究室のメンバーに相談したところ、皆がまるで自分ごとのように親身になって助言をくださり、私は恵まれた環境で研究に取り組めているのだと改めて実感しました。
最終的に、博士号取得後は企業への就職を選びましたが、研究室で築いた絆はこれからも大切にしていきたいと思います。
将来の目標
基礎研究の知識と経験を活かしながら、研究成果を社会に還元できる社会人を目指しています。私は、アカデミアではなく企業への就職を選びましたが、研究職として働く予定です。これまで大学院では、自身が興味を持つテーマを追求し、基礎研究に取り組んできました。基礎研究は、新たな知見を生み出し、科学の発展に貢献する重要な役割を担っています。一方で、企業における研究では、基礎研究の成果を応用し、実際の製品や技術の開発につなげることが求められます。研究の目的や視点は異なりますが、応用研究の土台には常に基礎研究があり、両者は密接に関係しています。企業での研究では、短期間で成果を出すことが求められる場面も多く、効率的な実験設計や柔軟な発想が必要になると考えています。これまでの研究経験を活かしつつ、新たな環境に適応しながら、社会に貢献できる研究者として成長していきたいと考えています。
後輩へのメッセージ
私が大切だと感じることを二つお伝えします。一つ目は、「一つの仕事をしっかりまとめ上げる経験をすること」です。私は博士論文を含めいくつか論文を執筆しましたが、最初は試行錯誤の連続で苦しい日々が続きました。しかし、やり遂げることで次にすべきことが明確になり、以前よりスムーズにこなせるようになりました。一つの仕事をまとめ上げる過程は困難を伴いますが、それを乗り越えた先には成果だけでなく、その経験そのものが今後の人生の大きな糧となるはずです。二つ目は、「一人で抱え込まず、相談すること」です。課題に直面したとき、まず自分で考えることも大切ですが、一人の知識・経験には限界があります。人に話すことで自分の考えが整理されることもあれば、自分では思いつかなかった視点をあっさりと提示してもらえることもあります。自尊心にとらわれず、他人を頼ることを恐れないでください。この二つの学びは、私自身の経験から得たものです。皆さんの参考になれば嬉しいです。
PROFILE
見目 悠
2016年4月 - 2020年3月 | 東北大学 理学部 生物学科(卒業) |
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2020年4月 - 2022年3月 | 東北大学大学院 生命科学研究科 脳生命統御科学専攻 博士前期課程(修了) |
2022年4月 - 2025年3月 | 東北大学大学院 生命科学研究科 脳生命統御科学専攻 博士後期課程(修了) |
2022年4月 - 2023年3月 | 東北大学高等大学院博士学生フェローシップ学生 |
2023年4月 - 2025年3月 | 日本学術振興会 特別研究員(DC2) |
2025年4月 - 現在 | 一般企業 研究職 |
受賞歴 | |
2023年11月 | 第96回日本生化学会大会 若手優秀発表賞 |
2024年7月 | 第76回日本細胞生物学会大会 若手優秀発表賞 |
2025年3月 | 東北大学 総長賞 |