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研究成果

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アブラナ科植物の自家不和合性を制御するS対立遺伝子の優劣性機構の解明 (複数の対立遺伝子をどのようにonにしたりoffにするのか、解明) (Nature Genetics's website on 29 January)

アブラナ科植物の自家不和合性を制御するS対立遺伝子の優劣性機構の解明 (複数の対立遺伝子をどのようにonにしたりoffにするのか、解明) (Nature Genetics's website on 29 January)

2006.01.20 17:37

アブラナ科植物の自家不和合性にみられるS対立遺伝子間で起きる優劣性発現は、プロモーター領域のメチル化によって制御されている

研究タイトル 自家不和合性花粉制御S因子SP11のプロモーター領域のメチル化が直線的優劣性を制御

所属:生態システム生命科学専攻・植物生殖遺伝分野
名前:渡辺正夫
URL: http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/index.html

 高等植物の自家不和合性は、ダーウィンの頃から着目されていた植物特有の現象であり、基礎科学からみれば、アブラナ科植物の自家不和合性は、遺伝的多様性を維持するメカニズムであり、植物における自己・非自己識別機構の1つとして注目されている。一方、この自家不和合性は、実際の安定的F1雑種による品種改良においても利用されている重要な形質である。

 アブラナ科植物の自家不和合性は、胞子体的に機能するS複対立遺伝子によって制御される。現在までのわれわれの研究から、雌しべ側S因子は、柱頭特異的遺伝子SRKであり、もう一つの柱頭特異的遺伝子SLGは、柱頭での認識反応を安定させることを明らかにした。一方、花粉側S因子については、SLG, SRKの近傍に位置する葯特異遺伝子SP11であることを証明した。S複対立遺伝子が胞子体的に機能することから、Sへテロ個体ではS対立遺伝子間には優劣性が生じる。特に、花粉側では、S1>S2>S3>S4>S5といった直線的な優劣性がみられる。この場合、S1S2へテロ個体から生じる花粉のS表現型は、すべて、S1となる。これは、このSへテロ個体のすべての花粉において、優性であるS1SP11のみが発現していることまでは明らかにした(Shiba et al. 2002, Kakizaki et al. 2003)。しかしながら、どの様にして、優性のSP11のみが発現するかと言うことについて、その分子機構は明らかになっていなかった。
 今回、東北大、奈良先端大、岩手大との共同研究により、この分子機構の一端を明らかにし、Nature Geneticsの1月29日、電子版に発表した。花粉側で直線的な優劣性を示すS52>S44>S60>S40>S29を材料として、それぞれのSヘテロ個体を作出し、そのSホモ個体、Sヘテロ個体での花粉側S因子であるSP11のプロモーター領域におけるメチル化程度を決定・比較した。その結果、SP11が発現している葯のタペート細胞(花粉にSP11を付与する機能を持つ)において、ホモ個体ではSP11のプロモーター領域で、メチル化は起きてないが、ヘテロ個体においては、例えば、S52S60では劣性となるS60SP11のプロモーター領域が、タペート細胞で特異的にメチル化されて、このことが発現抑制の要因であった。逆に、優性のS52SP11のプロモーター領域では、メチル化がみられず、SP11の発現がみられた。興味深いことに、このSヘテロ個体を自殖して得られたS60ホモ個体では、メチル化はみられなかった。つまり、世代を超えることで、リセットされていた。さらに、S60が優性となる組合せ、S60S29では、S60は優性となるため、メチル化されず、劣性となるS29SP11のプロモーター領域がメチル化されていた。つまり、組合せとなるS対立遺伝子の種類によって、メチル化のon-offが変化するというエピジェネティックな発現制御によって、優劣性が制御されていることを明らかにした。この様なエピジェネティックな制御は、この現象に特異的であり、今後、さらに、どの様な他の分子と相互作用して、劣性の対立遺伝子を見つけ出しているのかを明らかにすることを計画している。
(1)Shiba et al. (2002) Plant Cell, 14, 491-504.
(2)Kakizaki et al. (2003) Plant Cell Physiol., 44, 70-75.

私たちは、この様にアブラナ科植物の自家不和合性の分子機構を研究しています。ここまで明らかにしたように、S遺伝子の実態は明らかにしましたが、S遺伝子の認識後、どの様なシグナルが雌しべの細胞内に伝達され、自己花粉管の侵入ができなくなるのか、あるいは、非自己と認識された花粉がどのようなメカニズムで、花粉管が乳頭細胞に侵入するのかという点に関しては、ほとんど明らかになっていない。また、アブラナ科の特徴である胞子体的にS遺伝子が機能することに起因する優劣性の分子メカニズムについても、メチル化がなぜ特異的に起きるかについては、明らかになっていない。そこで、こうした点を明らかにするために、遺伝学、植物学の基礎を持ち、分子生物学の素養を有した学生さんと一緒に研究できることを希望します。