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「恋の矢」は寿命を縮める:カタツムリの愛と暴力

「恋の矢」は寿命を縮める:カタツムリの愛と暴力

2015.03.17 09:15

生態システム生命科学専攻 保全生物学分野

木村一貴・千葉聡

雌雄同体のカタツムリの中には、恋矢(love dart)と呼ばれる石灰質の硬い鋭利な刀剣のような器官をもっているものがいます。彼らは交尾の時にそれを相手に突き刺します。恋矢の表面には粘液が塗布されていて、恋矢が相手の体に刺さると、粘液が相手の体内に注入されます。この粘液は、相手に受け渡した精子が相手に分解されるのを防いだり、相手が別のカタツムリと再び交尾をするのを防いだりする働きがあるので、恋矢を刺すことによって、自分の精子をより多く相手の卵子と受精させることができます。

今回、東北大学大学院生命科学研究科の木村一貴研究員と千葉聡教授は、自分の子孫を増やすのに便利なこの恋矢が、一方で、それを刺した交尾相手にダメージを与え、その寿命を3/4にまで縮めてしまい、さらに生涯の産卵数を減少させてしまうことを示しました。一見、自分の子供を産んでくれる相手に危害を加えることは、自分にとって不利益なことのように思えます。しかし実は、交尾後の短期間は精子の受精率を高めることができるので、相手にダメージがあっても、その寿命が縮んでしまっても、相手に恋矢を突き刺したほうが、自分の精子をより多く受精させ、自分の遺伝子をより多く残す、という点で自分にとってメリットになるのです。

従来このような危険な交尾行動については、さまざまな事例が雌雄同体の動物で知られてきました。しかしこれが交尾相手にとってコストになることを実際に示した研究はありませんでした。今回の発見は、これを実験的に示した最初の例であり、雌雄同体の動物で、性(精子を受け渡す側と精子を受け取って卵子を受精する側)をめぐる対立が生じていることを明確に証拠立てた初めての研究となります。

このような雌雄同体でありながら生じる雌雄の対立は、軍拡競走のように互いにエスカレートして、より危険な交尾を進化させてきたと考えられます。この攻める―守る、の拮抗的な共進化が、種間でさまざまに異なる多様な形の恋矢や多様な交尾行動をもたらしたと考えられます。このプロセスは、従来理論的な枠組みはあったものの、今回の研究で初めてそれを実証的に支持する証拠が示されたことになります。本研究成果は、“性をめぐる対立”、が生物の多様化の本質的な駆動力のひとつであることを示す重要なステップであると言えます。本研究成果は、2015年3月11日付で、英国王立協会紀要「Proceedings of the Royal. Society B」電子版に掲載されました。

※本研究成果に関する記事がナショナルジオグラフィック、英エコノミスト誌などに掲載されました。

写真:交尾中のカタツムリと恋矢

【論文】
Kimura K & Chiba S (2015) The direct cost of traumatic secretion transfer in hermaphroditic land snails: individuals stabbed with a love dart decrease lifetime fecundity. Proceedings of the Royal. Society London B, DOI: 10.1098/rspb.2014.3063.

「雌雄同体の陸貝における外傷性分泌物輸送の直接のコスト:恋矢を刺された個体の寿命と生涯卵数の減少」

k.kimura.000※gmail.com(※を@に置き換えて下さい)