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レアメタル・ナノ粒子の光で脳細胞を活性化~近赤外光信号によるオン・オフ制御の実現~

レアメタル・ナノ粒子の光で脳細胞を活性化~近赤外光信号によるオン・オフ制御の実現~

2015.11.11 09:36

脳機能解析分野
八尾 寛

 東北大学大学院生命科学研究科の八尾寛教授らの研究グループは、ラット脳の神経細胞活動のオンオフを近赤外光(*1)により制御することに成功しました。光感受性機能タンパク質を神経細胞に作らせ、光のオン・オフで神経細胞の活動をコントロールする技術は、光遺伝学(オプトジェネティクス)とよばれ、生きている動物の狙った神経細胞の活動だけを、自由自在に変化させることができ、脳機能研究に大きな革新をもたらしてきました。しかし可視光は生体組織において吸収され、減衰してしまうため、脳の中まで信号を送ることは難しく、光ファイバーなどを脳の奥深く差し込む必要がありました。一方、近赤外光は、可視光に比べ組織透過性に優れているので、体表から脳の中まで信号を送ることができます。しかし、この信号を受け取る仕組みが今までありませんでした。本研究グループは、可視光に高感度のチャネルロドプシン(*2)とランタニドナノ粒子(*3)(レアメタル元素からなる。近赤外光を吸収し、青、緑、赤などの可視光を発光する性質を持つ)を組み合わせることで、近赤外光による神経細胞活動のオン・オフ制御に成功しました。本研究は、ともに最先端のナノ科学と生命科学の融合の成果です。この研究成果は、11月10日(火)付けで自然科学・臨床科学の総合オンライン誌Scientific Reports に掲載されました。本研究は、文部科学省科学研究費補助金、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)などの支援を受けて行われました。

図 神経細胞の近赤外光制御

(左)近赤外光を外から照射すると、脳内に投与したランタニドナノ粒子(LNP)を光らせることができる。(右)この光でチャネルロドプシンを活性化することにより、神経細胞を活動させることに成功した。

詳細(プレスリリース本文) PDF

【用語説明】
*1近赤外光
波長がおよそ650–1450 nmの電磁波で、赤色の可視光線に近い波長を持つ。性質も可視光線に近い特性を持つため「見えない光」として、赤外線カメラや赤外線通信、家電用のリモコンなどに応用されている。

*2チャネルロドプシン
光受容とイオンチャネルの機能を併せ持っている微生物型ロドプシンタンパク質の総称。緑藻類の一種クラミドモナスから得られたチャネルロドプシン2がよく用いられる。

*3ランタニドナノ粒子
一般にレアメタルと総称されるランタニド系列の元素の結晶体で、他の元素が添加されることにより、光学的に多様な機能が付加される。

*4アップコンバージョン
蛍光色素などの蛍光体は、エネルギーの大きな光子を吸収し、エネルギーの小さい光子を放出する。その結果、発光の波長が赤方偏移する。これに対し、エネルギーの小さな光子を吸収し、エネルギーの大きな光子を放出する現象をアップコンバージョン(up-conversion)という。

【論文題目】
題目:Near-infrared (NIR) up-conversion optogenetics
著者:Shoko Hososhima, Hideya Yuasa, Toru Ishizuka, Mohammad Razuanul Hoque, Takayuki Yamashita, Akihiro Yamanaka, Eriko Sugano, Hiroshi Tomita and Hiromu Yawo
雑誌:Scientific Reports
Volume Page: 5, 16533
DOI: 10.1038/srep16533

【お問い合わせ先】

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科脳機能解析分野
担当 八尾 寛 (やお ひろむ)
電話:022-217-6208
Eメール:yawo-hiromu*m.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えて下さい)

(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室 
担当 高橋 さやか (たかはし さやか)
電話:022-217-6193
Eメール:lifsci-pr*ige.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えて下さい)

yawo-hiromu*m.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えて下さい)