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不足する栄養を満たす植食者の柔軟な方法 —ミジンコを使った実験で解明—

不足する栄養を満たす植食者の柔軟な方法 —ミジンコを使った実験で解明—

2017.12.19 11:00

概要  

 植物は成長に必須な栄養元素の中でも特にリン含量が動物に比べて低いことが知られています。このため、植物を食べる動物、すなわち植食者はリン不足になりやすいことが実験などで示されて来ました。ところが、野外では餌となる植物のリン含量が少なくても、植食者の成長は必ずしも低下しません。この実験結果と野外での現象の乖離は生態化学量論*1や栄養生態学の謎でした。この謎を解くため、東北大学大学院生命科学研究科の占部城太郎教授の研究チームは植食者としてミジンコ(Daphnia pulicaria)を用いた実験を行いました。
 研究チームはまず緑藻、珪藻、ラン藻を異なる条件で培養し、これら藻類*2の混ぜ合わせを変えて化学組成の異なる様々な餌を作成しました。次いで、それらの餌をミジンコに与え、摂食速度やリンに対する同化効率*3、成長利用効率*4を調べました。
 その結果、(1)餌となる藻類全体のリン含量が低下すると摂食速度が増加すること、(2)複数の植物プランクトン種を摂食するとリンに対する同化効率、すなわち消化管でリンを吸収する割合が上昇すること、(3)特定の脂肪酸*5を持つ植物プランクトン種が餌に含まれると同化したリンの成長に対する利用効率が上がることが判りました。
 この一連の結果は、植食者は食べる量だけでなく同化や利用効率をも柔軟に変化させて栄養要求を満たしていることを示しており、なぜリン含量の低い餌を食べても植食者の成長速度は低下しないのかという謎を解くものです。また、本研究は、環境によって植物の栄養成分は変化すること、それ故多種の植物の存在が動物の成長を支えるうえで重要であることを示しています。
 本研究成果はWiley社(USA)発行のEcology Letters誌online版で12月5日に発表されました。
 
 
写真:実験に用いたミジンコ Daphnia pulicaria (プリカリアミジンコ)。
湖沼に生息する動物プランクトンの1種で、様々な藻類からなる植物プランクトンを餌として食べている。
 
 
【用語説明】
*1生態化学量論:生物の相互作用、例えば食うー食われるの関係を炭素、窒素、リンなどの元素の流量や存在量として扱う生態学の理論。
*2藻類: 水中に生活する植物のうち、微細で浮遊生活をするものは植物プランクトンと呼ばれる。緑藻類の他、珪藻類、藍藻類など、多くの分類群がある。
*3同化効率:摂食した餌量うち、消化管で消化されて実際に体に取り込まれた量を同化量と呼び、その摂食量に対する割合を同化効率という。同化効率が低いと、いくら食べても当該元素は体に蓄積されず、糞により排出されてしまうことになる。
*4成長利用効率:同化したリンに対して、炭素量などで測定した成長による増分量の比を成長利用効率と呼ぶ。成長利用効率が高いとは、リン同化量に対して体成長量が多いことを意味する。
*5脂肪酸:様々な種類があり、その組成や含量は藻類種や培養条件によって変化する。珪藻に多く含まれるEPA(eicosapentaenoic acid)は、動物が合成出来ない必須脂肪酸であるが、緑藻や藍藻類は持っていない。
 
 
【論文の詳細】
 
表題:Understanding the stoichiometric limitation of herbivore growth: the importance of feeding and assimilation flexibilities
「植食者の化学量制限を理解する:柔軟な摂食と同化の重要性」
 
著者:Urabe J, Shimizu Y, Yamaguchi T
 
雑誌:Ecology Letters
Version of Record online: 5 DEC 2017
 
 
 
 

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
教授 占部 城太郎(うらべ じょうたろう)
電話番号:022-795-6681
E メール:urabe*m.tohokuac.jp(*を@に置き換えてください)
 
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当:高橋 さやか(たかはし さやか)
電話番号:022-217-6193
E メール:lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)