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研究

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少数個体の先祖から50年で急速進化し、脅威に? 世界自然遺産・小笠原諸島の天敵外来トカゲ~ゲノム解析の研究成果

少数個体の先祖から50年で急速進化し、脅威に? 世界自然遺産・小笠原諸島の天敵外来トカゲ~ゲノム解析の研究成果

2017.12.22 00:00

概要  

〇北米原産のトカゲであるグリーンアノール(図)は、1960年代に小笠原諸島の父島に侵入後、急速に個体数を増やし、小笠原固有の生物の絶滅など大きな影響を及ぼしています。

〇小笠原諸島および侵入元の北米のグリーンアノール24個体のゲノム配列から、50年前に、約14個体(最大でも50個体)の移入個体が元になって、小笠原諸島の父島と母島に拡大していったと推定されました。また、その50年間で、筋肉や動きに関係する遺伝子や食物代謝に関わる遺伝子が自然選択を受け進化したと推定されました。

〇移入時の少数個体が保有する遺伝的変異[注2]から、移入先で個体数や生息域を拡大する過程で、移入元とは異なる新たな生息場所や餌に適応するような進化が生じたことが示されました。

〇今回の研究成果を踏まえれば、侵略的外来種になる可能性のある生物は、侵入時にたとえ少数の個体であっても、個体数と分布を拡大し、固有の生態系への脅威となる恐れが無視できません。この研究は移入初期段階での駆除対策を強化し、成功させることの重要性も示唆しています。
 

詳細な説明  

 東北大学大学院生命科学研究科の生物多様性進化分野の研究グループ(当時大学院生 玉手智史、河田雅圭教授、牧野能士准教授)が中心となり、総合研究大学院大学、自然環境研究センター、フロリダ大学との共同研究で、小笠原諸島の父島および母島、移入元のフロリダからそれぞれ8個体、合計で24個体のゲノム配列を解読し、得られたゲノム配列を用いて、50年前に移入した時点の個体数(有効集団サイズ[注3])を推定しました。その結果、約14個体(最大でも50個体)という結果が得られました。現在の小笠原集団の遺伝的変異の量は、フロリダの集団の約半分ほどでした。小笠原に最初に移入したトカゲの個体数は少なかったと考えられますが、複数の別々の集団の異なる遺伝的系統をもつ個体が混合した傾向が観察され、個体数から予想される遺伝的変異より大きかったと考えられます。
 さらに、小笠原諸島に移入後、自然選択により頻度を変化させた遺伝子の検出を試みました。小笠原諸島の集団のみで自然選択が検出された遺伝子のうち、移入元のフロリダの集団と比べて、遺伝子頻度が有意に異なる遺伝子を候補遺伝子としました。5つの遺伝子が複数の推定方法すべてで検出されました。そのうち2つは筋肉の発生や収縮に関わる遺伝子(neblgadl1)で、他の2つは食物代謝に関する遺伝子(ntn1, pik3cb)でした。
 小笠原諸島の個体と北米フロリダの個体の形態を比べてみると、小笠原の個体で後肢が長くなっていました。アノールトカゲの後肢の長さは、生息する樹木の部位などの生息場所と関係していると言われており、後肢が長いほど太い幹や平らな場所での移動能力が優れていることが示されています。これらのことから、小笠原では、移入元よりも樹木の下部や地面での活動が増加し、餌の種類も変化したことが予想されます。筋肉の発生に関する遺伝子は、後肢の伸長や運動能力の変化に関連し、食物代謝に関する遺伝子は食物の変化による代謝の変化に対応して進化したものと思われます。
 本研究は、ゲノム配列を用いて侵略的外来種の進化を示した初めての研究で、移入時点の個体数が小さくても50個体以下相当分の遺伝的変異があれば、新たな環境への適応進化が生じることが可能なことを示しました。近年、小笠原諸島の兄島に新たにグリーンアノールが侵入しました。早期に対策を開始したことにより、まだ顕著な影響が出るほど増加していませんが、今後、兄島の環境に適応進化し、個体数を増加させる可能性があり、現時点での駆除対策を成功させることが重要だと思われます。
 また、今回の研究成果を踏まえれば、侵略的外来種になる可能性のある生物は、侵入時にたとえ少数の個体であっても、個体数と分布を拡大し、固有の生態系への脅威となる恐れが無視できません。この研究は移入初期段階での駆除対策を強化し、成功させることの重要性も示唆しています。
 本研究の成果は、12月21日にScientific Reportsに掲載されました。本論文はオープンアクセスで、自由に閲覧可能です。
 
 
図.グリーンアノール(撮影:森英章)トカゲ亜目イグアナ科に属するトカゲで、原産国は北米である。
全長15-20cmで、樹木で生息し、昆虫を主に捕食する。
 
 
【論文の詳細】
 
表題:Inferring evolutionary responses of Anolis carolinensis introduced into Ogasawara archipelago using whole genome sequence data
 
著者:Satoshi Tamate, Watal M. Iwasaki, Kenneth L. Krysko, Brian J. Camposano, Hideaki Mori, Ryo Funayama, Keiko Nakayama, Takashi Makino and Masakado Kawata
 
雑誌:Scientific Reports/7, Article number: 18008
発行年:2017年
 
 
 

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
教授 河田 雅圭(かわた まさかど)
電話番号:022-795-6688
E メール:kawata*m.tohokuac.jp(*を@に置き換えてください)
ホームページ:http://meme.biology.tohoku.ac.jp/klabo-wiki/(研究室)
 
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当:高橋 さやか(たかはし さやか)
電話番号:022-217-6193
E メール:lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)