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研究

研究成果

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鳥が歌を子孫に伝える脳メカニズムの発見 文化伝承を支えるドーパミン

鳥が歌を子孫に伝える脳メカニズムの発見 文化伝承を支えるドーパミン

2018.10.18 09:00

発表のポイント

  • 歌をさえずる鳥の一種キンカチョウ*1が、世代を超えて正確に歌を伝承できる脳メカニズムを調べました。
  • 成鳥の成熟した歌を聞いたとき、幼いキンカチョウの脳では、歌うために必要な部位でドーパミン*2が放出されていました。
  • ドーパミンは、歌うために必要な脳部位に成鳥の歌の情報を記録して、幼いキンカチョウによる歌の模倣を可能にしていました。
  • 本研究の成果は、技術や文化の発展に寄与した人類の高い模倣能力の起源を理解する上で、有益な情報となる可能性があります。
 

概要

 東北大学大学院生命科学研究科の田中雅史助教は、アメリカのデューク大学のリチャード・ムーニー教授と、中国の北京大学の李毓龙教授の研究グループとの共同研究を行い、歌をさえずる鳥の一種キンカチョウの脳の中で、歌の模倣に必要な神経回路を発見しました。その神経は、脳の深部の中脳と呼ばれる部位から、歌う行動を司る脳部位まで突起を伸ばし、先生となる成熟した鳥の歌に反応して、ドーパミンを放出することが分かりました。さらに、このドーパミンの働きを妨げると、キンカチョウは先生の歌を模倣しなくなることが明らかになりました。本研究の結果は、模倣学習を発動する神経回路を初めて明らかにするもので、技術や文化の伝承のみならず、言語などの社会的コミュニケーションにも重要な役割を果たしている模倣行動の起源を理解する上で重要な発見です。本研究の内容は、10月17日18時(日本時間18日午前2時)にNature誌(電子版)で発表された後、11月1日発行のNature誌に掲載されました。本研究は、日本学術振興会の海外特別研究員制度、米国NIH、米国NSF、米国BRAIN Initiative、中国973 Programの支援を受けて行われました。
 

詳細な説明

 東北大学大学院生命科学研究科の田中雅史助教は、アメリカのデューク大学のリチャード・ムーニー教授と、中国の北京大学の李毓龙教授の研究グループとの共同研究を行い、スズメ亜目の一種であるキンカチョウの脳の内部で、歌の模倣に必要な神経回路を発見しました。
 キンカチョウなどの鳥は、親がさえずる歌を正確に模倣し、その歌を子孫へ伝えることで、世代を超えた文化として歌の伝承を行う能力を持っていますが、外界の音を全て模倣していては、安定した歌の伝承を行うことはできません。本研究は、模倣対象としてふさわしい成鳥から直接歌いかけられたときにだけ、幼いキンカチョウの脳の深部にある中脳の水道周囲灰白質(PAG: periaqueductal gray)*3と呼ばれる部位に存在する神経細胞が強く活動し、歌の行動を司る感覚運動野(HVC)*4へドーパミンを放出することが分かりました。幼いキンカチョウの脳内で、ドーパミンの信号伝達を遮断すると、聞いた歌を模倣しなくなり、また逆に、ドーパミンを放出させると、通常は真似しないスピーカーから流れた歌でも模倣が見られました。ドーパミンが放出された後に感覚運動野HVCの活動を記録してみると、ドーパミン放出時に流れていた歌に対する反応が出現しており、ドーパミンは、この脳部位に歌の記憶を形成することで、模倣行動を発動するのだと考えられます。
 本研究の結果は、模倣学習を発動する神経回路を初めて明らかにするもので、技術や文化の伝承のみならず、言語などの社会的コミュニケーションにも重要な役割を果たしている模倣行動の起源を理解する上で重要な発見です。本研究の内容は、10月17日にNature誌(電子版)で発表された後、11月1日発行のNature誌に掲載される予定です。本研究は、日本学術振興会の海外特別研究員制度、米国NIH、米国NSF、米国BRAIN Initiative、中国973 Programの支援を受けて行われました。
 
【用語説明】
*1 キンカチョウ:
学名はTaeniopygia guttata。スズメ亜目カエデチョウ科に属する、オーストラリア周辺が原産の鳥で、神経科学の研究によく用いられる。
 
*2 ドーパミン:
快楽や運動など様々な脳機能に関与することが知られる、神経間の情報伝達を担う分子。本研究によって、模倣の発動という新機能が明らかになった。
 
*3 水道周囲灰白質(PAG):
脳の深部の中脳と呼ばれる領域で、中脳水道の周囲に位置する神経細胞群。痛みや情動反応など、様々な機能を持つ神経細胞が混在しており、近年、ドーパミンを放出する神経細胞が、快楽や覚醒などの機能を持つことが分かり、注目を集めていた。
 
*4 歌をさえずるのに必要な感覚運動野(HVC):
歌をさえずる鳥で見つかっている神経細胞群で、聴覚野からの音の感覚情報を受け取り、運動野へ信号を送って発声を制御する。歌を聞いたときや、歌をさえずるときに活動する。この神経細胞群の働きを阻害すると、覚えた歌をさえずることができなくなってしまうことが知られ、歌う行動に必要不可欠な神経回路だと考えられている。
 
 
【図】
「模倣能力」
人は模倣能力をもつことで、次の世代へ言語などの知識を正確に伝えることができる。こうした優れた模倣能力は動物界では珍しいが、キンカチョウなどの歌をさえずる鳥は、模倣を通して歌を学習し、次の世代へ歌の伝承を行うことができる。
 
 
 
 
「本研究成果」
適切な模倣対象であるオスの成鳥から直接歌いかけられたとき、幼いキンカチョウの脳の中では、聴覚野と水道周囲灰白質(PAG)で活動が生じ、歌の行動を司る感覚運動野(HVC)では、PAGが放出するドーパミンの働きで、歌の聴覚記憶が形成され、その後の模倣学習を発動する。一方、スピーカーから同じオスの成鳥の歌を流しても、幼いキンカチョウのPAGは活動せず、模倣学習も生じない。
 
 
 
 
 
 
 
【論文の詳細】
 
題目: A mesocortical dopamine circuit enables the cultural transmission of vocal behaviour
 
著者: Masashi Tanaka, Fangmiao Sun, Yulong Li, and Richard Mooney
 
雑誌: Nature
 
Volume Page: 未定(11月1日発行)
DOI: 10.1038/s41586-018-0636-7
 
 
 

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科 
担当 田中 雅史(たなか まさし)
電話番号:022-217-6229
E メール:masashi.tanaka.a1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
 
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科 広報室
担当 高橋 さやか(たかはし さやか)
電話番号:022-217-6193
E メール:lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)