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研究

研究成果

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魚の胸ヒレの鰭条に前後軸パターンがあることの発見 ~胸ヒレ鰭条が付属肢先端部構造として四肢と比較可能なことを示唆~

魚の胸ヒレの鰭条に前後軸パターンがあることの発見 ~胸ヒレ鰭条が付属肢先端部構造として四肢と比較可能なことを示唆~

2019.09.24 16:00

発表のポイント

  • 四足動物の四肢は硬骨魚の有対ヒレから進化したが、その際にヒレの先端部構造である鰭条が失われている。
  • これまで鰭条は種内でも本数にばらつきがあるなどの理由から、四肢の先端部構造である指のような特定の前後軸パターン*1を持たないと考えられてきた。
  • 本研究では、ゼブラフィッシュの鰭条を系統内・系統間で詳細に比較し、本数のばらつき(バリエーション)の出方に前後軸に沿ったパターンがあることを発見した。またその形成過程には、四肢の前後軸形成に重要なlhx遺伝子が働いていることを見出した。
  • さらに、後方領域でバリエーションが現れる際には、遺伝的な違いと共に、非遺伝的な要因(環境や発生過程の確率要因)が重要な役割を果たすことを明らかにした。
  • 本研究の成果により、鰭条が指と進化発生学的に比較可能な構造であることが示唆され、これまで考えられてきたヒレから四肢への進化過程を覆す可能性を示した。  
 

概要

 東北大学大学院生命科学研究科の田村宏治教授、阿部玄武助教らのグループは、国立遺伝学研究所の川上浩一教授、東京工業大学生命理工学院の川上厚志准教授、慶応義塾大学の新屋みのり准教授らとの共同研究で、硬骨魚ゼブラフィッシュの胸ヒレの鰭条に、バリエーションの出現の仕方に関して前後軸のパターンがあることを発見しました。さらに鰭条の形成には、四肢の前後軸形成に重要なlhx遺伝子が働いていることも明らかにしました。これは、これまでヒレから四肢への進化の際にそれぞれ失われ、また獲得されたと考えられていた、ヒレの鰭条と四肢の指が進化発生学的に比較可能な構造である事を示唆する重要な報告になります。本研究結果は、9月18日付でZoological letter誌に掲載されました。本研究は、文部科学省科学研究費補助金及び内藤財団研究助成金の支援を受けて行われました。
  

詳細な説明

 真骨魚類の対鰭の骨格は、外骨格*2の鰭条(fin rays)と内骨格*2の担鰭骨(radials)に分けられます。このうち内骨格の担鰭骨は、同じく内骨格である四足動物の四肢の骨格要素と相同であると考えられており、胚発生の過程で前後軸(親指-小指方向の軸)に沿った骨格パターンが形成されるメカニズムについても、四肢と同様のメカニズムがはたらいていると考えられています。一方で、外骨格である鰭条の前後軸パターンの形成については、四肢や鰭の内骨格部分の発生メカニズムとの共通性を指摘するいくつかの報告はあるものの、個体ごとに鰭条本数にばらつきがあるなどの理由で明瞭なパターンはないだろうと考えられてきました。本研究では、まず鰭条について、とくに遠位の担鰭骨(distal radials)との接続部に着目して形態観察を行い、それをゼブラフィッシュの系統内および系統間で比較しました。その結果、鰭条の本数は個々の胸鰭ごとに変動があること、鰭条と遠位担鰭骨の接続の仕方は前後軸に沿って異なっており、それをもとに胸鰭を3つの領域にカテゴリー分けできること、さらに後ろ側の領域の鰭条の本数のゆらぎが鰭全体の鰭条本数の変動に繋がっていることが明らかになりました。また、発生過程で遠位担鰭骨が鰭条の根元に局在する様子を観察すると、遠位担鰭骨の局在様式は胸鰭の前方と後方で異なっており、中央の領域でそれが切替わっているのが観察されました。このことは、この局在様式の変化が鰭条の本数の変動に関係していることを示唆します。最後に私たちは、四肢において前後軸方向のパターン形成に関わっているlhx遺伝子が、鰭条と遠位担鰭骨の発生過程においても発現していることを確かめました。このように、鰭条とそれが内骨格へと接続する様式は前後軸にそって異なっており、そのパターンはこれまで報告されてきた四肢や胸鰭内骨格の前後軸パターンと同様の発生メカニズムによって形作られているようです。これらの結果から私たちは、鰭条の形成と遠位担鰭骨との接続の発生メカニズムは、四肢の先端部(手のひらや指など)の骨格要素の形成やその基部との接続のメカニズムに相当するものとして位置づけられるのではないかと考えています。
 
図 胸ヒレ鰭条骨格パターンとその発生過程
ゼブラフィッシュの胸鰭は鰭条(fin rays)と担鰭骨(radials)に分けられる(左)。鰭条の数は胸鰭ごとに変動があり、それは魚の大きさとは関係がない(中央上)。鰭条と遠位担鰭骨のとの接続様式によって、胸鰭を前後軸にそった3つの領域に分けることができる(中央下)。発生過程において、前側の遠位担鰭骨は鰭条の根元に局在するが、後ろ側の遠位担鰭骨は近位担鰭骨の先端から現れる(右)。
 
 
【用語説明】
 
*1.前後軸パターン ある特定集団で繰り返し再現される形態を、形態パターンと呼ぶ。形態は3次元で表現され、それぞれの軸性を前後、左右、基部先端部などに置いて表す。前後軸パターンは、ある器官構造において前後軸に沿って特定の特徴を持つ形態パターンを示す。例えば、ヒトの手足の指では、前側から親指、人差し指、中指、薬指、小指とそれぞれ長さや関節数などが異なり、特定の前後軸パターンを持っているといえる。
 
*2.外骨格と内骨格 硬骨魚以降の脊椎動物において、内骨格とは軟骨凝集を一度経てから骨化(軟骨性骨化)する骨の事を指し、一方で外骨格とは軟骨を経ないで骨化(膜性骨化)する骨を指す。  
 
 
【論文題目】
 
題目:Pattern of fin rays along the antero-posterior axis based on their connection to distal radials
 
著者:Hiroki Hamada, Toshiaki Uemoto, Yoshitaka Tanaka, Yuki Honda, Keiichi Kitajima, Tetsuya Umeda, Atsushi Kawakami, Minori Shinya, Koichi Kawakami, Koji Tamura & Gembu Abe 
 
雑誌:Zoological Letters 5, Article number: 30 (2019)
 
 
 
【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
担当 阿部玄武 (あべげんぶ)
電話番号: 022-795-6677
Eメール: gembu.abe.b5(at)tohoku.ac.jp
 
東北大学大学院生命科学研究科
担当 田村宏治 (たむらこうじ)
電話番号: 022-795-3489
Eメール:tam(at)tohoku.ac.jp
 
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか (たかはし さやか)
電話番号: 022-217-6193
Eメール: lifsci-pr(at)grp.tohoku.ac.jp