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研究

研究成果

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魚は切られたヒレの長さを分かっている 魚の尾ヒレ再生時に元の形を復元するしくみを新たに提案

魚は切られたヒレの長さを分かっている 魚の尾ヒレ再生時に元の形を復元するしくみを新たに提案

2020.01.21 14:00

発表のポイント

  • 魚の尾ヒレはアクシデントにより失われても元の形に再生することができるが、元の形がどのように記憶され、復元するのかは不明であった。
  • 本研究では、ゼブラフィッシュの尾ヒレ再生時に、尾ヒレの長さを詳細に計測し、どのように元の長さに戻るのかを解析した。その結果、尾ヒレは切除された“長さ”を元に、再生する速度と期間が決められていることが示された。
  • 尾ヒレの支持骨(鰭条:きじょう)の太さを変えて再生させると、元の長さよりも長いヒレが再生されたことから、骨の太さという構造的/物理的な条件が再生する“長さ”を決める情報(記憶)となっている可能性を示した。
  • 魚がもつ“切られた長さ”の記憶のしかたは、“切られた位置”を記憶していると考えられている両生類の四肢再生とは異なるしくみであり、魚のヒレが独自のメカニズムで形態再生していることを示唆している。
  • 本研究の成果は、生物が失われた構造を再生する際に、どのように元の構造を認識・記憶しているのか、という形の再生に関する重要な問題に対して新しいメカニズムの提案になる。
 

概要

 魚類はヒレを再生する高い能力を持っていますが、元の形がどのように復元されるのかは明らかにされていませんでした。東北大学大学院生命科学研究科の植本俊明(博士課程後期学生、学振特別研究員DC2)、田村宏治教授、阿部玄武助教のグループは、熱帯魚ゼブラフィッシュの尾ヒレの形の再生に関して、元の形がどのように再生するのかを、支持骨である鰭条の長さを詳細に計測することから解析し、尾ヒレが切除された長さのみを認識し再生の速度と期間を決めていることを明らかにしました。さらに、鰭条骨の太さが再生すべき長さを決定するのに重要であることを明らかにしました。これは、生物が失われた構造を再生する際に、どのように元の構造を認識しているのか、という形の再生に関する重要な問題に対して新しい提案をする重要な報告になります。本研究結果は、1月20日付でScientific Reports誌に掲載されました。
 

詳細な説明

 魚類は尾ヒレなどのヒレを再生する高い能力をもっています。双葉型の尾ヒレを切断すると、尾ヒレは素早く再成長して、もとの双葉型の形に戻ります。このとき、切断された尾ヒレの傷⼝には再生芽細胞と呼ばれる特殊な細胞集団が形成され、この再生芽細胞が新たな尾ヒレの形作りを担います。イモリなどの両生類の四肢の再生では、基部先端部軸(注1)に関して同じ位置(例えば膝の位置)で形成された再生芽細胞は同じ位置記憶(positional memory)をもつことが知られています(図1A)。しかし、魚類の尾ヒレの再生芽細胞が果たして両生類の四肢再生のときと同じように位置記憶をもっているのかについては論争があります。
 ゼブラフィッシュの尾ヒレは双葉型をしており、ウチワの形が骨の部分で決まるように、支持骨格である鰭条(きじょう)の長さによってその形が決まっています(図2A)。尾ヒレを同じ基部先端部軸レベルで直線的に切断した場合、もとの双葉型に戻るためには1本1本の鰭条はそれぞれ違う長さで再形成される必要があります。そこで私たちは、尾ヒレの再生時に鰭条ごとの再生期間と成長速度を詳細に調べました(図2)。すると、再生が終了するまでにかかる期間も成長速度も鰭条によって異なることが分かりました。また、より基部側で(深い位置で)切断したほうが、より先端部で(浅い位置で)切断するよりも、もとの形/大きさに戻るのに長い期間が必要であることも分かりました。これらの結果を統計的に解析すると、鰭条の位置(双葉型のふくらみや凹みのどの位置か)や切断の深さに関わらず、すなわち、鰭条の背腹軸、基部先端部軸とは独⽴して、「切断された鰭条の長さ」が再生期間と成長速度を決めていることが示唆されました(図3)。さらに、薬物投与実験を行い、切断位置の鰭条の太さのような構造的/物理的条件が再生期間と成長速度を決めるニッチ(注2)を作り出していることを示唆する結果を得ました。これらの結果は、両生類型の再生芽に保存される“位置の記憶”とは異なり、“切られた長さを認識している”という魚独自の形態再生メカニズムがあることを示しています(図1B)。
 本研究の成果は、生物が失われた構造を再生する際に、どのように元の構造を認識しているのか、という形の再生に関する重要な問題に対して、新しいメカニズムの提案になります。ヒトの器官再生においても、形を再生させることは器官が正常に働くために重要です。したがって本研究は、将来のヒトの器官再生につながる大きな成果になると考えられます。
 本研究は、文部科学省科学研究費補助金及び内藤財団研究助成金の支援を受けて行われました。

 
 
【用語説明】
 
注1. 基部先端部軸:体の形を3次元で表す際には、任意に3軸を規定して表現する。手足やヒレの場合、背腹、前後、基部先端部軸の3軸で表し、基部先端部軸は文字通り、根元から先端への軸性を指す。

注2. ニッチ:生体内の微小環境。この場合、生体組織の状態を指す。
 

 
 
図1. 両生類の四肢再生における位置記憶のモデル(A)と、今回明らかになった
魚類のヒレ再生における位置記憶のモデル(B)。それぞれの数字は基部先端部軸における仮想的な位置記憶。
 
 
 

図2. (A)ゼブラフィッシュの尾ヒレの模式図。青と赤の矢印は鰭条の長さを示す。(B)尾ヒレ切除後の鰭条の長さの変化

 
 
図3. (A)鰭条の切除した長さと再生期間の関係。(B)鰭条の切除した長さと成長速度の関係。
 
 
 
 
【論文題目】
題目:Regrowth of zebrafish caudal fin regeneration is determined by the amputated length
著者:Toshiaki Uemoto, Gembu Abe*, and Koji Tamura(*:責任著者)
雑誌:Scientific Reports
Volume Page : SREP-19-14796
【問い合わせ先】
<研究に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科
担当:助教 阿部 玄武(あべ げんぶ)
電話番号:022-795-6677
E-mail:gembu.abe.b5(at)tohoku.ac.jp
             
<報道に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科
担当:高橋 さやか (たかはし さやか)
電話番号: 022-217-6193
E-mail: lifsci-pr(at)grp.tohoku.ac.jp