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研究成果

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カリブ海型シガトキシンの左半分構造の高効率収束的合成に成功 〜世界最大規模の自然毒食中毒シガテラの撲滅を目指して〜

カリブ海型シガトキシンの左半分構造の高効率収束的合成に成功 〜世界最大規模の自然毒食中毒シガテラの撲滅を目指して〜

2023.01.11 10:00

【発表のポイント】

  • 世界最大規模の自然毒食中毒であるシガテラ中毒は、予防法がなく、世界的に年間2〜6万人の中毒患者が発生している。
  • シガテラ中毒の主要原因毒の一つであるカリブ海型シガトキシン(C-CTX)は、巨大な分子量と複雑な構造を有する巨大ポリ環状エーテル天然物で、検出法がなく、自然界から純粋な試料の収集が困難な微量成分である。
  • 毒判定のための標準試料の供給や微量検出法開発のために、C-CTXの効率的な化学合成法の確立が必須である。
  • 今回、C-CTXの左半分構造の高効率収束的合成に成功した。C-CTXの完全化学合成に向けた飛躍となる研究成果である。

【詳細な説明】

 シガテラ中毒は、熱帯・亜熱帯海域の毒化した魚類の摂取により発生する世界最大規模の急性自然毒食中毒であり、年間2〜6万人の中毒患者が発生しています。その原因毒であるシガトキシン(CTX)類1は、渦鞭毛藻により産生され、食物連鎖を通じて魚類に蓄積される複雑な巨大ポリ環状エーテル天然物2です。CTX類は基本骨格の異なる太平洋型、インド洋型、カリブ海型に分類され、最近では、カリブ海型シガトキシン(C-CTX)による中毒がヨーロッパでも発生しており、その予防対策は世界的に急務の課題となっています(図1)。しかし、C-CTXは自然界からは入手が困難な微量成分であるため、信頼性の高い検出法や予防法の開発を含めてC-CTXに関する研究は大きく遅れています。シガテラ中毒の予防と撲滅を指向した研究推進には、C-CTXの化学合成法の確立と量的供給が最重要課題です。
 今回、東北大学大学院生命科学研究科の佐々木教授のグループは、C-CTXの分子左半分構造の収束的な化学合成に成功しました(図2)。鍵反応として、独自に開発した酸化的ラクトン化と鈴木−宮浦クロスカップリング3を活用したポリ環状エーテル合成法を駆使しています。これまでC-CTXの分子左半分構造は、市販の化合物から44工程もの変換で合成されていたました。今回、上記の合成戦略を駆使することで35工程という短段階で合成できるようになりました。これにより、C-CTXの分子左半分構造を効率的に大量合成することが可能となりました。今回得られた成果は、C-CTXの世界初の全合成4への道を大きく拓くものであり、毒判定のための標準試料の供給や微量検出法の開発研究を大きく加速すると期待できます。地球規模で大きな脅威となりつつあるシガテラ中毒の予防と撲滅につながる大きな成果と言えます。本研究成果は、アメリカ化学会誌The Journal of Organic Chemistryに掲載されました。さらに、カバーアートが当該雑誌の表紙を飾りました。
 本研究は、JSPS科研費JP20H02919の助成を受けたものです。
 
 
図1 カリブ海型及び太平洋型シガトキシン類の化学構造
 
 
 
 
図2 酸化的ラクトン化と鈴木−宮浦クロスカップリングを駆使したC-CTX-1のABCDE環フラグメントの高効率収束的合成
 
 
 
図3 当該雑誌の表紙を飾ったカバーアートの様子
 
 
 
【用語説明】

(注1)シガトキシン類: シガテラ食中毒の主要原因毒であり、単細胞藻類の一種である渦鞭毛藻が生産し、食物連鎖を介して多様な魚類に蓄積される。電位依存性ナトリウムイオンチャネルに結合し、これを活性化することにより、強力な神経毒性を発現する。

(注2)ポリ環状エーテル天然物: 多数のエーテル環が梯子状に連なった特異な構造を有する海洋天然物である。その多くが巨大な化学構造と強力な生物活性を有している。

(注3)鈴木−宮浦クロスカップリング: 有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化物をパラジウム触媒存在下で連結する合成手法。炭素–炭素結合形成を伴いながら、それぞれ異なる有機分子同士を連結する強力な合成手法である。当研究室では、本手法を用いた複雑な海洋ポリ環状エーテル天然物の全合成を世界に先駆けて多数達成している。

(注4)全合成: 天然物を適切にデザインした合成経路を経て人工化学合成すること。多段階の精密有機合成反応を駆使して達成される。

 
 
【論文情報】
Makoto Sasaki,* Miku Seida, and Atsushi Umehara (2023) Convergent and Scalable Synthesis of the ABCDE-Ring Fragment of Caribbean Ciguatoxin C‐CTX‐1. The Journal of Organic Chemistry
DOI: 10.1021/acs.joc.2c02414 
 
 
【お問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
担当 佐々木 誠(ささき まこと)
電話番号: 022-217-6212
Eメール:masasaki(at)tohoku.ac.jp
 
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか (たかはし さやか)
電話番号: 022-217-6193
Eメール: lifsci-pr(at)grp.tohoku.ac.jp
 
 
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