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研究分野

脳生命統御科学専攻 :
細胞ネットワーク講座

研究

田原 浩昭

特任講師 田原 浩昭
キャンパス 片平 キャンパス
所属研究室 発生ダイナミクス
連絡先 022-217-6195
ホームページ https://researchmap.jp/HT_genetics
Researchmap

多細胞生物における遺伝子発現の制御現象の中で、RNA の発現パターンや細胞内分布に特徴のある現象や RNA を介した生理反応について、それらの分子機構そして細胞および個体発生における役割を研究してきています。モデル生物として線虫 C. elegans を用いた研究の過程で、生殖細胞に関連する幾つかの重要な生命現象にめぐり合ってきました。
経歴
筑波大学第二学群生物学類卒、同博士前期課程修了、総合研究大学院大学(遺伝研)博士後期課程修了・博士 (理学)、University of Massachusetts・博士研究員、京都大学医学研究科・特任助教授及びさきがけ研究員、筑波大学大学院医学医療系・博士研究員、東京女子医科大学医学部・非常勤講師、国立遺伝学研究所・博士研究員を経て、2024年10月より現職。
著書・論文
1. Tabara, H.*, Mitani, S., Mochizuki, M., Kohara, Y., and Nagata, K. (2023). A small RNA system ensures accurate homologous pairing and unpaired silencing of meiotic chromosomes. EMBO J. 42, e105002. *corresponding author
 
2. Aoki, K., Moriguchi, H., Yoshioka, T., Okawa, K., and Tabara, H.* (2007). In vitro analyses of the production and activity of secondary small interfering RNAs in C. elegans. EMBO J. 26, 5007-5019. *corresponding author
 
3. Tabara, H., Sarkissian, M., Kelly, W.G., Fleenor, J., Grishok, A., Timmons, L., Fire, A., and Mello, C.C. (1999). The rde-1 gene, RNA interference, and transposon silencing in C. elegans. Cell 99, 123-132.
 
4. Tabara, H., Hill, R.J., Mello, C.C., Priess, J.R., and Kohara, Y. (1999). pos-1 encodes a cytoplasmic zinc-finger protein essential for germline specification in C. elegans. Development 126, 1-11.
 
5. Tabara, H., Motohashi, T., and Kohara, Y. (1996). A multi-well version of in situ hybridization on whole mount embryos of Caenorhabditis elegans. Nucleic Acids Res. 24, 2119-2124.
 
6. 田原浩昭・浅沼高寛・小川宣仁. 線虫では初期型と二次型の siRNA の産生機序および活性が大きく異なる. 実験医学26,1249-1252ページ、2008 年.
 
所属学会
日本分子生物学会
担当講義
学部の分子生物学実習(線虫の分子遺伝学)を分担。

最近の研究について

 真核生物における減数分裂は、卵子と精子を形成するための生殖細胞特有の細胞分裂です。減数分裂の第一分裂期においては、母方と父方由来の相同な染色体同士が並んでシナプトネマ複合体を介して接着します。この現象は「相同染色体対合」と呼ばれ、減数分裂における遺伝子組換えおよび正確な本数の染色体を持つ卵子と精子の形成に重要な役割を果たしています。どのような仕組みで染色体同士の相同性が見出されているのかは、生命科学研究における未解明の謎の一つでした。他方で、オスの性染色体の殆どの領域や人為的に導入された染色体外遺伝子など、減数分裂期の核内で非対合状態となっている DNA 領域が一時的に不活化される「非対合サイレンシング」と呼ばれる現象も知られていますが、その仕組みもあまり分かっていませんでした。
 筆者は、線虫 C. elegans をモデル生物として RNA interference (RNAi) について研究してきました。真核生物における RNAi は、外来性の 2 本鎖 RNA の導入によって相同配列を持つ遺伝子の発現抑制が誘導される現象として発見され、その機構には小分子 RNA や Argonaute(アルゴノート)タンパク質等などが関与していることが知られています。RNAi 類似反応は、内在性の遺伝子発現制御においても重要な役割を果たしています。
 RNAi の機構について研究している過程で、小分子 RNA と相互作用する Argonaute タンパク質である CSR-1 そして類似タンパク質である CSR-2 を欠損した変異体では、減数分裂期染色体が相同性を著しく欠いた状態で対合することに、筆者は気づきました。そして、核内の CSR-1 やシナプトネマ複合体の側部因子を構成する減数分裂期特異的コヒーシンが、長鎖非コーディング RNA や小分子 RNA を発現している反復配列 DNA 領域に高頻度で存在し、通常とは逆方向(アンチセンス)の RNA を発現しているタンパク質コード遺伝子領域にも若干低い頻度で存在していることを見出しました。CSR-1 と類似タンパク質を欠いた変異体では、減数分裂期における非対合染色体のサイレンシングにも異常が観察されました。これらの知見に基づき、C. elegans の減数分裂においては、染色体ペアの相同対合および非対合染色体の凝縮に必要な相同性認識に内在性 RNAi が重要な役割を果たしていると考えています。
 減数分裂に関連する生命現象の更なる理解に向けて取り組みながら、研究を進展させるための新しい実験技術の開発も行っています。
 

メッセージ

 実験系の科学者は、現場で手を動かす点で職人であり、その仕事を論文としてまとめる点では一種のノンフィクションライターであると、私は考えています。