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低分子RNAが優劣性の遺伝子発現制御

低分子RNAが優劣性の遺伝子発現制御

2010.08.01 16:16

「複対立遺伝子間の優劣性」を解く鍵は「低分子RNA とDNAメチル化」という研究成果をNatureに発表

低分子RNAが優劣性の遺伝子発現制御
新しい品種改良技術に光

所属:生態システム生命科学専攻・植物生殖遺伝分野
名前:渡辺正夫
URL:http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/

 「メンデルの遺伝の法則」に「優性の法則」というのがあります。優性対立遺伝子と劣性対立遺伝子をそれぞれの 両親から1対ずつもらうと、優性・劣性対立遺伝子を「ヘテロ」に持つ状態となり、この時、優性の形質(性質)が表現 型として表れます。これが先の「優性の法則」であり、1865年にメンデルが発表した遺伝の法則の1つです。この優 性の法則については、これまでの解析から、優性対立遺伝子は機能できる遺伝子をコードしているが、劣性対立 遺伝子はその機能が何らかの形で破壊されているために、機能することがない、ということで理解されていました。

 では、対立遺伝子が3つ以上ある「複対立遺伝子」間での優劣性の場合、どのような分子メカニズムが働いている のか、不明でした。本研究科・植物生殖遺伝分野・渡辺正夫教授と、奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエン ス研究科・高山誠司教授らが共同研究を行い、アブラナ科植物の自家不和合性を制御しているS複対立遺伝子に 着目し、優劣性が生じる組合せになった場合には、エピジェネティックな制御が機能して、優性対立遺伝子が劣性 対立遺伝子の発現を抑制するという分子メカニズムを世界で初めて明らかにし、国際科学誌Natureに発表しました。

 アブラナ科植物の自家不和合性は、胞子体的に機能するS対立遺伝子で制御されており、対立遺伝子間には優 劣性が観察されることを遺伝学的に明らかにしていました。しかしながら、その分子メカニズムは不明でありました が、劣性対立遺伝子がホモになった場合でも、S遺伝子としては機能できることから、従来の優劣性の概念とは異 なることが予想されました。そこで、花粉側S遺伝子として機能しているSP11について、優性、劣性対立遺伝子のゲ ノム構造を比較解析したところ、劣性SP11対立遺伝子の発現を制御するプロモーター領域と高い相同性のある逆 反復配列を優性SP11対立遺伝子の周辺に存在していることを明らかにしました。この配列からは、低分子RNA (small RNA, sRNA)が、SP11と同様に、タペート細胞特異的に発現していました。この低分子RNAが劣性対立SP11 遺伝子の相同領域のDNAメチル化を誘導し、後天的に遺伝子発現を抑制していることを解明しました。この様な優 劣性現象は、従来からの古典的な優劣性とは異なり、新規な分子メカニズムを提唱し、新たな研究領域の展開が 期待できます。

 メンデルが遺伝の法則を発表してから100年以上ですが、新たなコンセプトを提唱でき、また、この分子メカニズム を利用することで、遺伝子発現を自由にオン・オフできる可能性があります。このことは、品種改良にも新しい概念 を導入できるのではないかと思っております。

この研究は英国・科学雑誌「Nature」(http://www.nature.com/nature/index.html)に、 日本時間8月19日午前2時(ロンドン時間の8月18日午後6時)に掲載されました。

Tarutani, Y., Shiba, H., Iwano, M., Kakizaki, T., Suzuki, G., Watanabe, M., Isogai, A. and Takayama, S. (2010) Trans-acting small RNA determines dominance relationships in Brassica self-incompatibility. Nature (doi: 10.1038/nature09308).

アブラナの花

 私たちは、アブラナ科植物の自家不和合性の分子機構を研究しています。今年の4月には、モデル植物のシロイヌナズナを利用して、自家不和合性シロイヌナズナの作成に成功し、今回と同様にNatureに論文を発表しました。今回は、自家不和合性が見せる遺伝子発現制御の分子メカニズムを解明したものであり、これらを統合して、自家不和合性の全体像を明らかにしていきたいと思っております。
 そこで、こうした点を明らかにするために、遺伝学、植物学の基礎を持ち、分子生物学の素養を有した学生さんと一緒に研究できることを希望します。ぜひ、渡辺まで、ご連絡ください。