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遺伝子導入研究分野 骨髄移植の成否の鍵を握る受容体を発見

遺伝子導入研究分野 骨髄移植の成否の鍵を握る受容体を発見

2004.06.01 16:17

加齢医学研究所遺伝子導入研究分野

中村 晃,高井俊行

 骨髄移植の際に起る不適合反応の強さを、免疫細胞上にある受容体の一種であるPIRというタンパクが調節していることを、東北大学加齢医学研究所の中村 晃助手、高井俊行教授の研究グループが突き止めた。PIR1)に は免疫を強めるPIR-Aと逆に弱めるPIR-Bがあるが、このうちPIR-Bが欠損したマウスでは白血病患者への骨髄移植の際に問題となる移植片対宿主 病と呼ばれる不適合反応が増強され、死亡率が高まった。この受容体のはたらきをコントロールする方法が見つかれば、慢性的なドナー(提供者)不足に悩む骨 髄移植患者にとって朗報となろう。これらの成果は米国の科学雑誌ネイチャー・イムノロジー2004年6月号に掲載された。
 白血病の有力な治療法である骨髄移植は、MHCクラスI分子2)と呼ばれる白血球の型が、ドナーと患者(レシピエント3))の間で一致していることが成功の鍵を握っている。骨髄移植は、レシピエントの免疫作用を弱めてから行われるため、もしMHCクラスI分子の型が一致していないと、移植されたドナーのT細胞4)を 中心とした白血球が、レシピエント側のMHCクラスI分子の型が違うことを認識して、臓器を攻撃し、移植片対宿主病と呼ばれる、時にはレシピエントの死に 至る強い不適合反応を起こしてしまう。しかしながら、人には多くのMHCクラスI分子の型があるために、ドナーとレシピエントの間で完全にその型を一致さ せることは難しい。そこで実際の骨髄移植では、移植片対宿主病に代表される不適合反応をいかに抑えるかが治療の中心となっている。高井教授らは免疫細胞上 の受容体を調べ、その中でT細胞受容体以外に樹状細胞5)上のPIR-AとPIR-BもMHCクラスI分子を認識していることを突 き止めた(図1)。さらにPIR-Bが無いマウスの免疫機能を弱めてから骨髄移植をすると移植片対宿主反応が強くなり、全例が死亡したこと、さらに移植後 のマウスでドナー細胞を活性化するはたらきを持つ樹状細胞の表面にPIR-Aが強く誘導されていることから、PIRがこの反応の強さを調節していると結論 付けた。
 抑制にはたらくPIR-Bの作用を強めたり、逆に免疫活性化にはたらくPIR-Aの作用を抑えるような薬剤を開発することで、骨髄移植の成功率を上げた り、ドナーと患者間の白血球型のマッチングの厳格さを緩めたりできる可能性があり、ひいては慢性的なドナー不足の解消に役立つことが期待される。

図1 B細胞表面のPIR-BがMHCクラスI分子を結合することを示す蛍光顕微鏡写真

 野生型マウスのB細胞の表面上にはPIR-Aは無く、PIR-Bのみが発現し、抗PIR抗体で蛍光染色される。これはMHCクラスI分子の結合による蛍光 と合致することから、PIR-BがMHCクラスIを結合することが分かる。PIR-B欠損マウスのB細胞ではこれらいずれの蛍光も観察されない。なお樹状 細胞上にはPIR-AとPIR-Bがともに発現し,いずれもMHCクラスI分子を結合する.

注:
1)PIR:免疫グロブリン様受容体であるPIRは、免疫細胞上にある受容体の一種で、PIRには免疫を強めるPIR-Aと逆に弱めるPIR-Bがある。
2)MHCクラス1分子(major histocompatibility complex 主要組織適合遺伝子複合体):MHC分子は、細胞内で抗原が分解されてできたペプチドを分子の先端に結合して細胞表面に発現する。T細胞は、抗原を直接認 識することができず、細胞表面に発現する抗原ペプチドとMHC分子を複合体として認識する。白血球型,HLA型と呼ばれるものとほぼ同義
3)レシピエント:他の人から提供された臓器・組織・血液を移植ないし輸血してもらう人
4)T細胞:胸腺に由来する免疫細胞で,樹状細胞から提示を受けた異物を認識し,これに対抗するための免疫反応を実行し,あるいは制御する細胞
5)樹状細胞:異物を細胞内に取り込んで加工し,T細胞に提示することで免疫応答を開始させる,組織にくまなく分布する重要な細胞.

Nakamura A, Kobayashi E, Takai T. Exacerbated graft-versus-host disease in Pirb-/- mice.
Nature Immunology 5: 623 - 629 (2004)