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心臓形成における極性・細胞移動に重要なメカニズム

心臓形成における極性・細胞移動に重要なメカニズム

2007.06.03 18:15

心臓形成における極性・細胞移動に重要なメカニズム〜心奇形の原因遺伝子を同定!?〜

所属:生命科学研究科 神経機能制御分野
名前:宮坂恒太、木田泰之、佐藤隆行、南真理、小椋利彦

 ヒトを含むすべての動物において最も初期に形成され、かつ機能する重要な器官は『心臓』である。生物の発生過程では、一つ一つの細胞は分裂を繰り返しながら適切な位置へと移動し、それぞれの場所で異なる個性を獲得する。それ故、心臓が備える多様な機能や複雑な形態形成には、正確に制御された細胞移動の機構が必要不可欠である。心臓の細胞集団は、初期に身体の左右に一対存在し、その後、身体の中心へと移動することで一つの心臓が形成される。しかし、このように複雑な細胞移動がどのように制御されているかについてはほとんど解明されていない。今回、宮坂(博士後期課程1年)、木田助教、小椋教授らのグループは、二叉心臓(心臓が左右にできてしまう病態、表現型)の原因遺伝子をゼブラフィシュにおいて同定した。そして、この遺伝子(Csrp1)は発生初期からいくつかの器官に発現し、機能していることが確認された。
 神経機能制御分野では、ゼブラフィッシュ胚において、生体内の個々の細胞を標識して追跡する、バイオイメージングの系が立ち上げられている(生命科学科ニュース欄2007年5月、Kida et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2007)。この手法から、Csrp1の機能を欠失させた個体での細胞移動が、著しく阻害されていたこと。この移動阻害は、細胞骨格を制御するJNKおよび極性を制御するWntに依存したものであることも、in vivo, in vitroの実験系から明らかにしている。左右一対に存在する心臓原基は、やがて正中への移動をはじめるが、驚くべきことに、Csrp1の機能を欠失させた胚では、二叉心臓になることを発見した。今回の解析から明らかにされた重要なことは、細胞移動(JNK)と極性因子(Wnt)と心臓形成を結びつける因子(Csrp1)を同定したことであり、細胞生物学的、分子生物学的に心臓形成を明らかにするために必須な知見となるだろう。
 ヒトにおいての重篤な心奇形は胎生致死になることから、二叉心臓で生まれてくることはない。しかし、ヒトの胎児致死の10%には重篤な心奇形であり、また出生時の先天的奇形は、心臓における奇形が全体で最も多くを占めているという。今回の研究が心臓形成機構の解明に繋がり、ひいては、重篤な心奇形の機構を理解し、その治療法を確立するための一助になることが期待される。

本研究成果は、6月25日付で米科学アカデミー紀要 (PNAS) 電子版に掲載された。
Miyasaka KY, Kida YS, Sato T, Minami M, Ogura T. (2007) Csrp1 regulates dynamic cell movements of the mesendoderm and cardiac mesoderm through interactions with Dishevelled and Diversin. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 10.1073/pnas.0702000104. Epub 2007 Jun. 25
http://www.pnas.org/cgi/content/abstract/0702000104v1