【発表のポイント】
- 植物の受精卵内部の液胞の挙動を観察し、液胞がチューブ状構造を介して2つの娘細胞へ非対称に分配されることを明らかにした。
- 変異体との比較により、液胞のダイナミックな形態変化と移動によって、受精卵の非対称分裂が達成されることを発見した。
- 細胞内のレベルで、植物の体軸形成の理解が進むことが期待される。
【概要】
植物の葉や根などの器官は、体軸に沿って作られます。ほとんどの被子植物において、体軸は、受精卵が非対称に分裂することで確立されます。その際、オルガネラの一つである液胞は、細胞下部により多く蓄積することが知られていましたが、どのようにしてその非対称な分配がもたらされるのかは不明でした。東北大学大学院生命科学研究科の松本光梨助教、木全祐資助教、植田美那子教授らの研究グループは、名古屋大学、熊本大学、東京大学との共同研究により、モデル植物のシロイヌナズナにおいて、受精卵の液胞がダイナミックな形態変化を経て、細胞下部へ移動することを見出しました。受精卵内部の詳細なライブイメージングと、画像解析手法を組み合わせ、受精卵では、液胞がチューブ状構造を形成し、細胞上部と下部で混合と解離を活発に繰り返しながら、徐々に細胞下部へと移動していくことを発見しました。また、液胞の非対称な分配が損なわれ、受精卵が対称分裂してしまう変異体を用いた観察では、正常なチューブ状構造が作られず、液胞の極性移動が損なわれることを明らかにしました。今回の発見は、液胞の形態変化と移動が、受精卵の非対称分裂に重要であることを示しており、植物の体軸形成への理解が進むと期待されます。
本研究成果はPlant and Cell Physiology誌の2021年8月号に掲載され、また、同誌の表紙に掲載されました。
【図】
図1(左)シロイヌナズナの受精卵のライブイメージング像および液胞分配の模式図。ライブイメージング像では、液胞を緑色、核をピンク(矢じり)で蛍光標識している。野生型の受精卵ではチューブ状の液胞を介して非対称に分配される。(右)紫外光(UV)による蛍光の色変換手法を用いた、液胞構造のライブイメージング像。緑色で標識された上部の液胞にUVを照射(紫印)すると、ピンクへと色が変換される(0 min;黄色括弧)。チューブ状構造により、上部と下部の液胞が混合し合う野生型では、照射から20分後で色が緑色に戻るのに対し、正常なチューブ状構造が作られないvti11変異体では、液胞同士が混合せず、照射から40分後も色がピンクのままとなる。スケールバーは10マイクロメートル(µm)を表す。
図2 Plant and Cell Physiology誌 2021年8月号の表紙
【論文情報】
題目:Dynamic Rearrangement and Directional Migration of Tubular Vacuoles are Required for the Asymmetric Division of the Arabidopsis Zygote
著者: Hikari Matsumoto, Yusuke Kimata, Takumi Higaki, Tetsuya Higashiyama, and Minako Ueda
筆頭著者情報:
松本 光梨 東北大学大学院生命科学研究科
木全 祐資 東北大学大学院生命科学研究科
雑誌:Plant and Cell Physiology
発行:2021年8月
【お問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
担当 植田 美那子(うえだ みなこ)
電話番号: 022-795-6713
Eメール: minako.ueda.e7(at)tohoku.ac.jp